【徹底解説】行列の符号と主小行列

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

行列の符号と主小行列

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$と$k=1,\ldots,n$に対し,つぎが成り立つ。

  1. $A$が正定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式がすべて正
  2. $A$が半正定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式がすべて非負
  3. $A$が負定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式に$(-1)^{k}$を掛けたものがすべて負
  4. $A$が半負定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式に$(-1)^{k}$を掛けたものがすべて非正

ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表し,$M_{n}(\mK)$は$\mK$上の$n$次エルミート行列全体の集合を表す。

上のいずれのケースでもない場合,行列の符号の定義より$A$は不定値になります。

証明

まず以下について証明を行い,その後同じ流れで他の命題の証明を行います。

$A$が正定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式がすべて正

正定値⇔主小行列式がすべて正

最初に必要性,すなわち「正定値⇒主小行列式がすべて正」を証明します。次に十分性,すなわち「主小行列式がすべて正⇒正定値」を証明します。

必要性

$A$の$k$次主小行列を$A_{k}$とし,$A_{k}$が$k$次首座小行列となるように$A$の行と列を入れ替えた行列を$\hat{A}$とおきます。行列の符号と行と列の入れ替えの性質より,$A$が正定値ならば$\hat{A}$も正定値になります。したがって,$n$次元内積空間の任意の元$\vx$に対し,

\begin{align}
\overline{\vx}^{T}\hat{A}\vx &> 0
\end{align}

が成り立ちます。すると,$\vx$として

\begin{align}
\vx &= [x_{1},\ldots,x_{k},0,\ldots,0]
\end{align}

を選ぶと,$k$次元内積空間の任意の元$\vx_{k}=[x_{1},\ldots,x_{k}]$に対して

\begin{align}
\overline{\vx}^{T}_{k}A_{k}\vx_{k} &> 0\label{正定値}
\end{align}

が成り立ちます。したがって,$A_{k}$は正定値になります。行列の符号と固有値の性質より,正定値行列$A_{k}$の固有値はすべて正になります。さらに,行列式は固有値の積で表されることから,$A_{k}$の行列式は正となります。すなわち,任意の$k$に対して主小行列式$A_{k}$が正となることが示されました。

十分性

すべての主小行列式が正となるとき,当然任意の$k$に対して首座小行列$A_{k}$の行列式が正となります。よって我々は,任意の$k=1,\ldots,n$に対して

\begin{align}
\det(A_{k}) &> 0\label{行列式が正}
\end{align}

が成り立つときに,$A$が正定値となることを示せばよいです。ここでは,$n$に関する帰納法により証明します。

首座小行列の仮定のみで十分であることは天下り的ですが,差し当たり飲み込んでください。

$n=1$とし,$k=1$に対して仮定($\ref{行列式が正}$)が成り立つと仮定すると,$A$の行列式が正になります。行列式はすべての固有値の積であることから,$A$の固有値は正であることが分かります。行列の符号と固有値の性質より,すべての固有値が正であるエルミート行列$A$は正定値であることから,$A$が正定値であることが示されました。

続いて,$n\geq 2$とし,$k=1,\ldots,n-1$に対して仮定($\ref{行列式が正}$)が成り立つと仮定します。ここからの証明方法には,エルミート形式とエルミート変換の性質に基づく方法と,シルヴェスターの慣性法則に基づく方法があります。

エルミート形式とエルミート変換の性質に基づく方法

汎用性の高い議論を行うため,行列の世界から線型変換の世界に移ります。$g$を$n$次元内積空間$V$上のエルミート形式としても一般性を失いませんので,そのように設定します。$A$を$V$の一つの基底$\beta=\{v_{1},\ldots,v_{n}\}$に関する$g$の表現行列とし,$f$を$g$の極形式とします。

$k=1,\ldots,n-1$に対して仮定($\ref{行列式が正}$)が成り立つことを線型変換の言葉で表すと,$V_{n-1}=\langle v_{1},\ldots,v_{k}\rangle$上では$g$は正定値であることになります。すると,我々の目標は,$0$でない$V_{n}$の任意の元$v$に対して,$g(v)>0$を示すことです。まず,極形式の定義より,$g(v)=f(v,v)$が成り立ちます。また,行列式が0でない行列によって定まる線型変換は正則であることから,仮定($\ref{行列式が正}$)により$f$に一対一対応するエルミート変換$F$は正則になります。正則の定義より,$V$の元に線型変換$F$を施すことで$V$の任意の元を表すことができますので,$V_{n-1}$の直交補空間$V_{n-1}^{\perp}$の基底を$w$とおくと,

\begin{align}
F(v^{\ast}) &= w
\end{align}

を満たす$V$の元$v^{\ast}$が存在します。$w$が$V_{n-1}^{\perp}$の元であることに注意すると,共役双一次形式と線型変換より,すべての$u\in V_{n-1}$に対して

\begin{align}
f(u,v^{\ast}) = (u\mid F(v^{\ast})) = (u\mid w) = 0\label{直交}
\end{align}

が成り立ちます。エルミート双一次形式$f$は内積空間$V$における内積のことを指しますので,すべての$u\in V_{n-1}$に直交する$v^{\ast}$は$V_{n-1}$の元には含まれません。したがって,基底の定義より$\beta=\{v_{1},\ldots,v_{n-1},v^{\ast}\}$は$V$の基底になります。このとき,$a\in \mK$に対して任意の$V$の元は一意的に

\begin{align}
v &= u + av^{\ast}\label{一意}
\end{align}

と表されます。このとき,$f$の共役双一次形式としての性質と式($\ref{直交}$)より,

\begin{align}
g(v) &= f(v,v) = f(u + av^{\ast},u + av^{\ast}) \\[0.7em]
&= f(u, u) + 2f(u, av^{\ast}) + f(av^{\ast},av^{\ast})\\[0.7em]
&= f(u, u) + 2\oa f(u, v^{\ast}) + \oa\cdot af(v^{\ast},v^{\ast})\\[0.7em]
&= f(u,u) + |a|^{2}f(v^{\ast},v^{\ast}) = f(u,u)+c|a|^{2}
\end{align}

が成り立ちます。ただし,$f(v^{\ast},v^{\ast})=c$とおきました。我々が知りたいのは$v\neq 0$のときですので,式($\ref{一意}$)より$u\neq 0$または$a\neq 0$のときを考えますが,いずれの場合においても$c>0$を示せば十分です。したがって,以下では$c>0$を示します。式($\ref{直交}$)と表現行列の定義より,$g$の$\beta^{\prime}$に関する表現行列$A^{\prime}$は

\begin{align}
A^{\prime} &=
\begin{bmatrix}
A_{n-1}&\vzero\\
\vzero^{T}&c
\end{bmatrix}\label{A_prime}
\end{align}

となります。区分けされた三角行列の行列式の性質より,

\begin{align}
\det(A^{\prime}) &= c\cdot\det(A_{n-1})\label{積}
\end{align}

となります。一方,$\beta$から$\beta^{\prime}$への基底変換行列を$P$とおくと,定義より$P^{\ast}$は$\beta^{\prime}$から$\beta$への基底変換行列になりますので,基底変換行列の基底の取り換えにより

\begin{align}
A^{\prime} = P^{\ast}AP = \oP^{T}AP
\end{align}

が成り立ちます。両辺の行列式を考えると,

\begin{align}
\det(A^{\prime}) = \det(\oP^{T})\det(A)\det(P) = \overline{\det(P)}\det(A)\det(P) = |\det(P)|^{2}\cdot \det(A)
\end{align}

となります。ただし,積の行列式転置行列の行列式複素共役の行列式の性質を利用しました。仮定($\ref{行列式が正}$)より$\det(A)>0$となることと,基底変換行列の定義より$P$は正則であり,正則の性質より$\det(P)>0$となることから,$\det(A^{\prime})>0$となります。したがって,仮定($\ref{行列式が正}$)と式($\ref{積}$)より$c>0$が示されました。以上より,任意の$n$に対して主小行列$A_{k}$の行列式が正となるとき$g$が正定値であること,すなわち$A$が正定値であることを示せました。

シルヴェスターの慣性法則に基づく方法

$n$次エルミート行列は,以下のように区分けできます。

\begin{align}
A &=
\begin{bmatrix}
A_{n-1}&\vb\\
\overline{\vb}^{T}&d
\end{bmatrix}
\end{align}

ただし,$\vb\in\mK^{n-1}$,$d\in\mK$とします。ここで,やや天下り的ですが,

\begin{align}
P &=
\begin{bmatrix}
I_{n-1}&A_{n-1}^{-1}\vb\\
\vzero^{T}&1
\end{bmatrix}
\end{align}

で定義される行列$P$を考えます。この$P$を用いることで,$A$は

\begin{align}
A &= P^{\ast}BP\label{A}
\end{align}

のように表されます。ただし,$P^{\ast}$は$P$の共役転置を表し,

\begin{align}
B &=
\begin{bmatrix}
A_{n-1}&\vzero_{n-1}\\
\vzero^{T}_{n-1}&d-\ovb^{T}A_{n-1}^{-1}\vb
\end{bmatrix}
\end{align}

とおきました。式($\ref{A}$)とシルヴェスターの慣性法則より,$B$が正定値であることを示せば,$B$に正則線型変換を施した$A$も正定値になります。そこで,以下では$B$が正定値であることを示しましょう。式($\ref{A}$)の両辺の行列式をとると,

\begin{align}
\det(A) &= \det(P^{\ast})\det(B)\det(P) = \det(\oP^{T})\det(B) = \overline{\det(P)}\det(B) = \det(B) \\[0.7em]
&= \det(A_{n-1})\cdot \det(d-\ovb^{T}A_{n-1}^{-1}\vb) \equiv \det(A_{n-1})\cdot \det(c)\label{恒等式}
\end{align}

となります。ただし,複素共役の行列式の性質を利用し,$c{=}d-\ovb^{T}A_{n-1}^{-1}\vb$とおきました。いま,仮定より$\det(A){>}0$かつ$\det(A_{n-1}){>}0$ですので,式($\ref{恒等式}$)を成り立たせるためには$c>0$となることが分かります。すると,$\vx=[\vx_{n-1}^{T},x_{n}]^{T}$のように$\vx_{n-1}\in\mR^{n-1}$と$x_{n}\in\mR$に区分けした縦ベクトル$\vx$に対し,$B$を表現表現行列にもつエルミート形式は,

\begin{align}
\ovx^{T} B\vx =
[\ovx_{n-1}^{T}~\ox_{n}]
\begin{bmatrix}
A_{n-1}&\vzero_{n-1}\\
\vzero^{T}_{n-1}&c
\end{bmatrix}
[\vx_{n-1}^{T}~x_{n}]^{T}
= \ovx_{n-1}^{T}A_{n-1}\vx_{n-1}+c|x_{n}|^{2}\label{結論}
\end{align}

となります。仮定より$A_{n-1}$が正定値であることと$c>0$より,$\ovx^{T} B\vx>0$が示されました。すなわち,$B$が正定値であることが示されました。

以上の二つの証明方法により,任意の$n$に対して$A$が正定値であることを示せました。したがって,以下の命題の証明が完了しました。

$A$が正定値$~\Leftrightarrow~$$k$次主小行列式がすべて正

半正定値⇔主小行列式がすべて非負

「正定値⇔主小行列式がすべて正」の議論で,$<$を$\leq$に,$>$を$\geq$に置き換えれば示すことができます。

負定値⇔主小行列式に-1のk乗を掛けたものがすべて負

$-A$が正定値であるとき$A$は負定値になりますので,「正定値⇔主小行列式がすべて正」の議論で,$A$を$-A$におきかえればよいです。実際に,シルヴェスターの慣性法則に基づく方法を用いることにすると,式($\ref{A}$)は

\begin{align}
-A &= P^{\ast}BP\label{-A}
\end{align}

と表され,式($\ref{恒等式}$)は

\begin{align}
\det(-A) = \det(-A_{n-1})\cdot (d+\vb^{t}A_{n-1}^{-1}\vb) \equiv \det(-A_{n-1})\cdot c\label{恒等式2}
\end{align}

となります。仮定より,$\det(-A){>}0$かつ$\det(-A_{n-1}){>}0$ですので,式($\ref{恒等式2}$)を成り立たせるためには$c{>}0$となることが分かります。すると,式($\ref{結論}$)は

\begin{align}
\ovx^{T} B\vx =
[\ovx_{n-1}^{T}~\ox_{n}]
\begin{bmatrix}
-A_{n-1}&\vzero_{n-1}\\
\vzero^{T}_{n-1}&c
\end{bmatrix}
[\vx_{n-1}^{T}~x_{n}]^{T}
= \ovx_{n-1}^{T}(-A_{n-1})\vx_{n-1}+c|x_{n}|^{2}
\end{align}

となります。仮定より$-A_{n-1}$が正定値であることと$c>0$より,$\ovx^{T} B\vx>0$が示されました。すなわち,$B$が正定値であることが示されました。これで必要性を証明できました。逆に,十分性の議論で$A$を$-A$におきかえると,式($\ref{正定値}$)は

\begin{align}
\ovx^{T}_{k}(-A_{k})\vx_{k} &> 0
\end{align}

のように書き換えられますので,$-A_{k}$が正定値であることが示せます。したがって,まったく同様の議論により

\begin{align}
\det(-A_{k}) = (-1)^{k}\det(A_{k}) > 0
\end{align}

が示されます。これで十分性を証明できました。

半負定値⇔主小行列式に-1のk乗を掛けたものがすべて非正

「負定値⇔主小行列式に-1のk乗を掛けたものがすべて負」の議論で,$<$を$\leq$に,$>$を$\geq$に置き換えれば示すことができます。

以上より,すべての命題の証明が完了しました。

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