【徹底解説】シルヴェスターの慣性法則

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

シルヴェスターの慣性法則

$V$を$n$次元ベクトル空間,$f$を$V$上のエルミート双一次形式,$\beta=\{v_{1},\ldots,v_{n}\}$を$f$に関する$V$の直交基底とし,$i=1,\ldots,n$に対して

\begin{align}
f(v_{i},v_{i}) &= c_{i}
\end{align}

とする。このとき,$c_{i}>0,~c_{i}<0,~c_{i}=0$である$i$の個数$p,q,s$は$\beta$のとり方には関係なく$f$に対して確定している。すなわち,$f$の符号は一定である。

$(p,q)$が変わらないということは$f$の符号が一定であるということです。

補足

基底変換行列が正則な線型変換を施す行列に相当することに注意すると,シルヴェスターの慣性法則は以下のように表現することもできます。

シルヴェスター標準系は一意に定まる。すなわち,エルミート形式にどのような正則線型変換を施してシルヴェスター標準系に移しても,符号は一定である。

証明

$\beta^{\prime}=\{w_{1},\ldots,w_{n}\}$を$f$に関する$\beta$とは異なる直交基底とし,

\begin{align}
f(w_{i},w_{i}) &= d_{i}
\end{align}

とします。$c_{i}$と同様に,$d_{i}>0,d_{i}<0,d_{i}=0$である$i$の個数を$p^{\prime},q^{\prime},s^{\prime}$とおき,必要があれば番号をつけかえることにより,

\begin{align}
c_{1}>0,~\cdots,c_{p}>0,~c_{p+1}\leq 0,~\cdots, c_{n}\leq 0,\\[0.7em]
d_{1}>0,~\cdots,d_{p^{\prime}}>0,~d_{p^{\prime}+1}\leq 0,~\cdots, d_{n}\leq 0\\[0.7em]
\end{align}

とします。このとき,

\begin{align}
U=\langle v_{1},\cdots,v_{p}\rangle,~W=\langle w_{p^{\prime}+1},\cdots,w_{n}\rangle
\end{align}

とおくと,エルミート形式の符号の定義より$f$は$U$上で正値,$W$上で負値にります。すなわち,$U$の$0$以外の元$v$に対して$f(v,v)>0$が成り立ち,$W$の$0$以外の元$w$に対して$f(w,w)\leq 0$が成り立ちます。このことから,$U$と$W$に共通元が存在しないことが分かります。したがって,部分空間の和$U+W$の次元は$U$の次元と$W$の次元の和となります。

\begin{align}
\dim(U+W) = \dim U + \dim W = p+(n-p^{\prime})
\end{align}

$U$と$W$の作り方から$\dim(U+W)\leq n$となりますから,$p+(n-p^{\prime})\leq n$が得られます。したがって,$p\leq p^{\prime}$となります。同様に,

\begin{align}
U=\langle w_{1},\cdots,w_{p^{\prime}}\rangle,~W=\langle v_{p+1},\cdots,v_{n}\rangle
\end{align}

と定義することで,$p^{\prime}\leq p$が得られますので,$p^{\prime}=p$となります。同様に,適宜不等号の向きを反転させることにより,$q^{\prime}=q$も得られます。$p+q+s=p^{\prime}+q^{\prime}+s^{\prime}=n$に注意すると,$s^{\prime}=s$も得られます。以上より,上の定理が示されました。

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