本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
目次
区分けされた三角行列の行列式
正方行列$T$を対称に区分けして,
\begin{align}
T &=
\begin{bmatrix}
A & B \\[0.7em]
O & D
\end{bmatrix} \label{主題}
\end{align}
T &=
\begin{bmatrix}
A & B \\[0.7em]
O & D
\end{bmatrix} \label{主題}
\end{align}
または
\begin{align}
T &=
\begin{bmatrix}
A & O \\[0.7em]
C & D
\end{bmatrix}\label{副題}
\end{align}
T &=
\begin{bmatrix}
A & O \\[0.7em]
C & D
\end{bmatrix}\label{副題}
\end{align}
の形になったとすれば,
\begin{align}
\det (T) &= \det(A)\cdot \det(D)
\end{align}
\det (T) &= \det(A)\cdot \det(D)
\end{align}
が成り立つ。ただし,対称に区分けするとは,$A$と$D$が正方行列となるように区分けることをいう。
帰納法の仮定を用いる際などに利用される公式です。
証明
転置行列の行列式はもとの行列式と等しいため,式($\ref{主題}$)を示せば式($\ref{副題}$)も示されます。いま,$A$を$m$次正方行列,$D$を$n$次正方行列とします。$m$に関する帰納法により証明します。$m=1$のとき,$\det(A)=A$に注意すると,$T$の第$1$列に関する余因子展開より,
\begin{alignat}{2}
\det(T) &= (-1)^{1+1}A\cdot \det(D) &&= \det(A)\cdot \det(D)
\end{alignat}
\det(T) &= (-1)^{1+1}A\cdot \det(D) &&= \det(A)\cdot \det(D)
\end{alignat}
が成り立ちます。$A$が$m-1$次正方行列のときに式($\ref{主題}$)が成り立つと仮定します。すると,$A$が$m$次正方行列のとき,第$1$列に関する余因子展開より,
\begin{align}
\det(T) &= \sum_{i=1}^{m}(-1)^{i+1}a_{i1}\cdot \det(T_{i1}) \label{代入前}
\end{align}
\det(T) &= \sum_{i=1}^{m}(-1)^{i+1}a_{i1}\cdot \det(T_{i1}) \label{代入前}
\end{align}
が成り立ちます。ただし,$a_{i1}$は$A$の$(i,1)$成分を表し,$T_{ij}$は$T$の第$i$行と$j$列をとり除いた行列を表します。いま,帰納法の仮定より,
\begin{align}
\det(T_{i1}) &= \det(A_{i1})\cdot \det(D)
\end{align}
\det(T_{i1}) &= \det(A_{i1})\cdot \det(D)
\end{align}
が成り立ちます。ただし,$A_{ij}$は$A$の第$i$行と$j$列をとり除いた行列を表します。これを式($\ref{代入前}$)に代入すると,
\begin{align}
\det(T) &= \left\{\sum_{i=1}^{m}(-1)^{i+1}a_{i1}\det(A_{i1})\right\}\cdot \det(D) \\[0.7em]
&= \det(A)\cdot \det(D)
\end{align}
\det(T) &= \left\{\sum_{i=1}^{m}(-1)^{i+1}a_{i1}\det(A_{i1})\right\}\cdot \det(D) \\[0.7em]
&= \det(A)\cdot \det(D)
\end{align}
が得られます。ただし,行列$A$の余因子展開を利用しました。これで,$A$が$m$次正方行列のときにも式($\ref{主題}$)が成り立つことが示されました。したがって,任意の$A$のサイズに関して式($\ref{主題}$)が成り立つことが示されました。
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