本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
目次
行列の符号
エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$の符号は,$A$で定まる$\mK^{n}$上のエルミート形式の符号,すなわち
\begin{align}
f(\vx,\vx) &= \overline{\vx}^{T}A\vx\label{主題1}
\end{align}
f(\vx,\vx) &= \overline{\vx}^{T}A\vx\label{主題1}
\end{align}
の符号によって定まる。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表し,$M_{n}(\mK)$は$\mK$上の$n$次正方行列全体の集合を表し,$\vx$は$n$次元内積空間の任意の元を表す。式($\ref{主題1}$)が正となるエルミート行列を正定値,半正となるエルミート行列を半正定値,負となるエルミート行列を負定値,半負となるエルミート行列を半負定値という。任意の$\vx$に対して式($\ref{主題1}$)の符号が変わってしまう場合,$A$は不定値とよばれる。
式($\ref{主題1}$)はエルミート形式の行列による表現に基づく定義です。
補足1
とくに,$\mK=\mR$のときは正定値は以下のように定義されます。
対称行列$A\in M_{n}(\mR)$の符号は,$A$で定まる$\mR^{n}$上の二次形式
\begin{align}
f(\vx,\vx) &= \vx^{T}A\vx\label{主題2}
\end{align}
f(\vx,\vx) &= \vx^{T}A\vx\label{主題2}
\end{align}
の符号によって定まる。式($\ref{主題2}$)が正となる対称行列を正定値,半正となる対称行列を半正定値,負となる対称行列を負定値行,半負となる対称行列を半負定値という。任意の$\vx$に対して式($\ref{主題2}$)の符号が変わってしまう場合,$A$は不定値とよばれる。
補足2
表で表すと,以下のようにまとめられます。
複素数空間の場合
判別方法 | $A$の符号 |
$\overline{\vx}^{T}A\vx>0$ | 正定値 |
$\overline{\vx}^{T}A\vx\geq0$ | 半正定値 |
$\overline{\vx}^{T}A\vx<0$ | 負定値 |
$\overline{\vx}^{T}A\vx\leq0$ | 半負定値 |
$\overline{\vx}^{T}A\vx$の符号は$\vx$によって変わる | 不定値 |
実数空間の場合
判別方法 | $A$の符号 |
$\vx^{T}A\vx>0$ | 正定値 |
$\vx^{T}A\vx\geq0$ | 半正定値 |
$\vx^{T}A\vx<0$ | 負定値 |
$\vx^{T}A\vx\leq0$ | 半負定値 |
$\vx^{T}A\vx$の符号は$\vx$によって変わる | 不定値 |
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