本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
グラムシュミット分解の一意性
任意の$n$次元正則行列$A$は,ユニタリ行列$U$と対角成分が正の実数である三角行列$T$の積で一意に表される。ただし,$T$が上三角行列の場合は$UT$,下三角行列の場合は$TU$となる。
正則行列に対してグラムシュミット分解が一意に存在することを主張する定理です。
証明
グラムシュミット分解の存在は,グラムシュミットの正規直交化法により示すことができました。
本稿では,グラムシュミット分解が一意であることを示します。まずは$T$が上三角行列の場合を示し,下三角行列の場合も同様として証明を行います。いま,$A$のグラムシュミット分解が一意でないと仮定します。すると,
A &= U_{1}T_{1} = U_{2}T_{2}\label{仮定}
\end{align}
と表されます。ユニタリ行列$U_{1},U_{2}$の列ベクトルは線型独立であり,線型独立な列ベクトルで構成される行列はフルランクで,フルランク行列は正則であることから,$U_{1},U_{2}$は正則になります。また,仮定より上三角行列$T_{1},T_{2}$の対角成分は正の実数であり,三角行列の行列式は対角成分の積で表されるため,$T_{1},T_{2}$の行列式は$0$ではありません。行列式が0でない行列は正則であることから,$T_{1},T_{2}$は正則になります。したがって,式($\ref{仮定}$)の左から$U_{2}^{-1}$,右から$T_{1}^{-1}$を掛けたものを$B$とおくと,
B &= U_{2}^{-1}U_{1} =T_{2}T_{1}^{-1}\label{逆行列による変形}
\end{align}
が成り立ちます。ユニタリ行列の逆行列はユニタリ行列であること,ユニタリ行列の積はユニタリ行列であること,上三角行列の逆行列は上三角行列であること,上三角行列の積は上三角行列になることから,式($\ref{逆行列による変形}$)に基づくと$B$はユニタリ行列かつ上三角行列となります。$B$がユニタリ行列であることから$B^{\ast}=B^{-1}$が成り立ち,$B$が上三角行列であることから$B^{\ast}$は下三角行列となりますが,上三角行列の逆行列は上三角行列であることから$B^{-1}$もまた上三角行列となります。$B^{\ast}=B^{-1}$が上三角行列かつ下三角行列となるとき,$B$は対角行列でなければなりません。$B$がユニタリ行列であることに注意すると,ユニタリ行列かつ対角行列である行列は単位行列しかありませんので,$B=I_{n}$となります。ただし,$I_{n}$は$n$次元単位行列を表します。したがって,式($\ref{逆行列による変形}$)に$B=I_{n}$を代入すると,
U_{1} &= U_{2},\quad T_{1} = T_{2}
\end{align}
が得られます。以上より,$T$が上三角行列の場合のグラムシュミット分解が一意であることが示されました。$T$が下三角行列の場合も同様にして示すことができます。
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