【徹底解説】ユニタリ行列と同値な条件

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

ユニタリ行列と同値な条件

$n$次正方行列$A$に対するつぎの六つの主張はどれも互いに同値である。

  1. $A$はユニタリ行列である
  2. 任意の$\vx\in\mK^{n}$に対して$\|A\vx\|=\|\vx\|$
  3. 任意の$\vx,\vy\in\mK^{n}$に対して$(A\vx|A\vy)=(\vx|\vy)$
  4. $A$の$n$個の列ベクトル$\va_{1},\ldots,\va_{n}$は正規直交系である
  5. $A$の$n$個の行ベクトル$\va_{1}^{\prime},\ldots,\va_{n}^{\prime}$は正規直交系である
  6. $\langle \vb_{1},\ldots,\vb_{n}\rangle$が正規直交系ならば$\langle A\vb_{1},\ldots,A\vb_{n}\rangle$も正規直交系である

ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。

六つの条件とも直感的にも合理的な条件だと思います。証明は齋藤正彦の線型代数学(東京図書)より。

証明

証明の全体像は下図の通りです。

本証明の全体像

$1\Rarr2$

内積の公理を利用します。

\begin{align}
\|A\vx\|^{2} &= (A\vx|A\vx) = (\vx|A^{\ast}A\vx) = (\vx|\vx) = \|\vx\|^{2}
\end{align}

$2\Rarr3$

仮定より,$\vx,\vy\in\mK^{n}$に対して$\|\vx+\vy\|^{2}$と$\|A(\vx+\vy)\|^{2}$が等しくなることを利用します。まずは$\|\vx+\vy\|^{2}$を展開します。

\begin{align}
\|\vx+\vy\|^{2} &= \|\vx\|^{2}+(\vx|\vy)+\overline{(\vx|\vy)}+\|\vy\|^{2}
\end{align}

続いて,$\|A(\vx+\vy)\|^{2}$を展開します。

\begin{align}
\|A(\vx+\vy)\|^{2} &= \|A\vx\|^{2}+(A\vx|A\vy)+\overline{(A\vx|A\vy)}+\|A\vy\|^{2}
\end{align}

仮定より,$\|A\vx\|^{2}=\|\vx\|^{2}$かつ$\|A\vy\|^{2}=\|\vy\|^{2}$であることから,

\begin{align}
(\vx|\vy)+\overline{(\vx|\vy)} &= (A\vx|A\vy)+\overline{(A\vx|A\vy)}
\end{align}

が得られます。すなわち,$(\vx|\vy)$と$(A\vx|A\vy)$の実数部分が等しくなることが分かりました。次に,虚数部分が等しくなることを示すために,$\vx$の代わりに$i\vx$を用いて同様の比較を行うと,

\begin{align}
i\left\{(\vx|\vy)-\overline{(\vx|\vy)}\right\} &= i\left\{(A\vx|A\vy)-\overline{(A\vx|A\vy)}\right\}
\end{align}

が得られます。すなわち,$(\vx|\vy)$と$(A\vx|A\vy)$の虚数部分が等しくなることが分かりました。以上より,$2\Rarr3$が示されました。

$3\Rarr1$

内積の公理を利用して与えられた仮定を変形します。

\begin{align}
0 &= (A\vx|A\vy)-(\vx|\vy) = (\vx|A^{\ast}A\vy)-(\vx|\vy) = (\vx|(A^{\ast}A-I_{n})\vy)
\end{align}

ただし,$I_{n}$は$n$次元単位行列を表します。$\vy$を固定すると,内積の公理より任意の$\vx$に対して$(A^{\ast}A-I_{n})\vy=\vzero$が成り立ちます。これが任意の$\vy$に対して成り立ちますので,$A^{\ast}A-E=O$となります。したがって,ユニタリ行列の定義より$A$はユニタリ行列になります。

$1\Lrarr4$

$A=[\va_{1},\ldots,\va_{n}]$のグラム行列$A^{\ast}A$を考えます。

\begin{align}
A^{\ast}A &=
\begin{bmatrix}
(\va_{1}|\va_{1})&\ldots&(\va_{1}|\va_{n})\\
\vdots&\ddots&\vdots\\
(\va_{n}|\va_{1})&\ldots&(\va_{n}|\va_{n})
\end{bmatrix}
\end{align}

ユニタリ行列の定義はグラム行列が単位行列となることです。グラム行列が単位行列となるのは$(\va_{i}|\va_{j})=\delta_{i,j}$のとき,すなわち$\va_{1},\ldots,\va_{n}$が正規直交系のときです。ただし,$\delta_{i,j}$はクロネッカーのデルタを表します。逆に,$\va_{1},\ldots,\va_{n}$が正規直交系のときはグラム行列が単位行列になりますので,$A$はユニタリ行列になります。

$1\Lrarr5$

$1\Lrarr4$の証明を$A^{T}$に対して行えば示すことができます。

$4\Rarr6$

正規直交系$\vb_{1},\ldots,\vb_{n}$に対し,仮定より$B=[\vb_{1},\ldots,\vb_{n}]$はユニタリ行列になります。ユニタリ行列の積がユニタリ行列となることを利用すると,$AB=[A\vb_{1},\ldots,A\vb_{n}]$はユニタリ行列になります。したがって,仮定より$A\vb_{1},\ldots,A\vb_{n}$は正規直交系になります。

$6\Lrarr4$

単位ベクトル$\ve_{1},\ldots,\ve_{n}$は正規直交系ですので,仮定より$\va_{1}=A\ve_{1},\ldots,\va_{n}=A\ve_{n}$は正規直交系になります。

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