本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
目次
行列の符号とグラム行列
$A$が正定値である場合は$A$を構成するベクトルに一次独立という制限が加わることに注意してください。
証明
複素内積空間におけるテプリッツの定理より,エルミート行列$A$は
\begin{align}
\begin{bmatrix}
\alpha_{1}&&\\
&\ddots&\\
&&\alpha_{n}
\end{bmatrix}
\end{align}
\begin{bmatrix}
\alpha_{1}&&\\
&\ddots&\\
&&\alpha_{n}
\end{bmatrix}
\end{align}
と対角化できます。ただし,$\alpha_{1},\ldots,\alpha_{n}$は$A$の固有値を表します。$A$が半正定値のとき,行列の符号と固有値の関係より$\alpha_{1},\ldots,\alpha_{n}$は非負になります。しがたって,
\begin{align}
A_{1} &=
\begin{bmatrix}
\sqrt{\alpha_{1}}&&\\
&\ddots&\\
&&\sqrt{\alpha_{n}}
\end{bmatrix}
\end{align}
A_{1} &=
\begin{bmatrix}
\sqrt{\alpha_{1}}&&\\
&\ddots&\\
&&\sqrt{\alpha_{n}}
\end{bmatrix}
\end{align}
で定義される$A_{1}$を用いれば,$A=A_{1}^{2}=A_{1}^{\ast}A_{1}$となります。すなわち,$A$がグラム行列であることが示されました。さらに,$A$が正定値のときは$A$の行列式は正となりますので,行列式と正則の性質より$A$は正則になります。正則である行列はフルランクであり,フルランクの行列は一次独立なベクトルから構成されることより,$A$は一次独立なベクトルから構成されることが示されました。
逆に,$A$がグラム行列であるとき,$A=A_{1}^{\ast}A_{1}$を満たす$A_{1}$が存在しますので,$A$の行列式は
\begin{align}
\det(A) &= \det(A_{1}^{\ast}A_{1}) = \det(A_{1}^{\ast})\cdot \det(A_{1}) \\[0.7em]
&= \det(A_{1})^{\ast}\cdot \det(A_{1}) = \|\det(A_{1})\|^{2} \geq 0
\end{align}
\det(A) &= \det(A_{1}^{\ast}A_{1}) = \det(A_{1}^{\ast})\cdot \det(A_{1}) \\[0.7em]
&= \det(A_{1})^{\ast}\cdot \det(A_{1}) = \|\det(A_{1})\|^{2} \geq 0
\end{align}
となります。ただし,複素共役の行列式と転置行列の行列式の性質を利用しました。行列式が非負である行列は半正定値となるため,$A$は半正定値となります。さらに,$A$が一次独立なベクトルから構成されるときは行列式は0とならないことから,$\det(A)>0$が成り立ちます。したがって,$A$が正定値であることが示されました。
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