【徹底解説】行列の符号とコレスキー分解

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

行列の符号とコレスキー分解

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$と$k=1,\ldots,n$に対し,つぎが成り立つ。

ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表し,$M_{n}(\mK)$は$\mK$上の$n$次エルミート行列全体の集合を表す。

併せて行列の符号と同値な定義も確認してください。

証明

まず,「$A$が正定値ならば$A$はコレスキー分解可能」から示します。行列の符号はエルミート行列に対して定義されますので,$A^{\ast}=A$が成り立ちます。ただし,$A^{\ast}$は$A$の随伴行列を表します。また,$A$が正定値ならば,$A$のすべての首座小行列式は正になります。すると,$LU$分解の存在条件より,$L$を上三角行列,$U$を下三角行列として$A$には$LU$分解が存在しますので,以下が成り立ちます。

\begin{align}
LU &= A = A^{\ast} = U^{\ast}L^{\ast}
\end{align}

$U^{\ast}$が上三角行列,$L^{\ast}$が下三角行列であることに注意すると,$LU$分解の一意性から

\begin{align}
U = L^{\ast}
\end{align}

が成り立つことが分かります。したがって,$A=LL^{\ast}$となる$L$が存在することが示されました。次に,「$A$がコレスキー分解可能ならば$A$は正定値」を示します。$A$がコレスキー分解可能なとき,

\begin{align}
A &= LL^{\ast}
\end{align}

を満たす上三角行列$L$が存在します。このとき,行列の符号はエルミート形式に対して定義されることに注意すると,

\begin{align}
\vx^{\ast}(LL^{\ast})\vx &= (L^{\ast}\vx)^{\ast}(L^{\ast}\vx) = \left\|L^{\ast}\vx\right\|^{2}\geq 0
\end{align}

が分かります。半正定値行列の固有値はすべて非負となることから,$A$の固有値はすべて非負となります。ここで,$A$の固有値が$0$とならないことを示すため,$A$の行列式を考えます。

\begin{align}
\det(A) &= \det(LL^{\ast}) = \det(L)\det(L^{\ast}) = \det(L)^{2}
\end{align}

$LU$分解の求め方より,$L$は正則な行列である基本行列の積で表され,正則行列の積は正則であることから,$L$は正則になります。正則行列の行列式は0ではないことを利用すると,

\begin{align}
\det(A) &= \det(L)^{2} \neq 0
\end{align}

が得られます。行列式はすべての固有値の積と等しいことから,$A$の固有値には$0$が含まれていないことが分かりました。$A$の固有値はすべて非負でしたので,$A$の固有値はすべて正となります。以上より,固有値と行列の符号の関係に注意すると,$A$は正定値になります。

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