【徹底解説】行列の符号と同値な定義

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

行列の符号と同値な定義

以下では,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$,$M_{n}(\mK)$は$\mK$上の$n$次正方行列全体の集合,$k=1,\ldots,n$とします。

正定値行列に対して

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$が正定値行列であることと次の条件は同値である。

  1. 固有値がすべて正 [証明]
  2. 主小行列式がすべて正 [証明]
  3. 首座小行列式がすべて正 [証明]
  4. $A$は一次独立なベクトルで構成されるグラム行列 [証明]
  5. $A$はユニタリ行列により対角成分が正の対角行列に対角化可能 [証明]
  6. $A$は一意なコレスキー分解をもつ [証明]

半正定値行列に対して

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$が半正定値行列であることと次の条件は同値である。

  1. 固有値がすべて非負 [証明]
  2. 主小行列式がすべて非負 [証明]
  3. $A$はグラム行列 [証明]
  4. $A$はユニタリ行列により対角成分が非負の対角行列に対角化可能 [証明]

さらに,以下が成り立つ。

  1. $A$が半正定値ならば首座小行列がすべて非負 [証明]

「首座小行列がすべて非負ならば$A$が半正定値」は成り立たないことに注意してください。また,正定値行列におけるコレスキー分解に相当する概念が半正定値の必要十分条件に登場しないことに違和感を覚えるかもしれませんが,正定値対称行列に特化したLU分解をコレスキー分解とよんでいるだけですので,ここは正定値の必要十分条件と無理やり整合性をとらなくてもよい箇所だと思います。

負定値行列に対して

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$が負定値行列であることと次の条件は同値である。

  1. 固有値がすべて負 [証明]
  2. 主小行列式に$(-1)^{k}$を掛けたものがすべて負 [証明]
  3. 首座小行列式に$(-1)^{k}$を掛けたものがすべて負 [証明]

半負定値行列に対して

エルミート行列$A\in M_{n}(\mK)$が半負定値行列であることと次の条件は同値である。

  1. 固有値が非正 [証明]
  2. 主小行列式に$(-1)^{k}$を掛けたものがすべて非正 [証明]

さらに,以下が成り立つ。

  1. $A$が半負定値ならば首座小行列がすべて非正 [証明]

「首座小行列がすべて非正ならば$A$が半負定値」は成り立たないことに注意してください。

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