【徹底解説】列階数と行階数

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

行列の列階数と行階数

行列$A$の列階数と行階数は等しくなる。

行列のランクを考える際は列を基準にしても行を基準にしても変わらないことを主張する定理です。

証明

行列と線型写像はある基底に関して一対一対応するので,$L_{A}:~\mR^{n}\rightarrow \mR^{m}$をある基底に関して$A$が定める線形写像とします。線形写像の階数の定義行列の階数の定義より,$L_{A}$の階数は行列$A$の階数と等しくなりますから,行列$A$の列階数を$r$とおくと,$L_{A}$の階数も$r$となります。すると,階数・退化次数の定理より,$L_{A}$の退化次数は$n-r$となります。言い換えれば,

\begin{align}
A\vx &= 0 \label{1}
\end{align}

を満たす縦ベクトル$\vx\in \mR^{n}$全体の集合の次元が$n-r$となります。

$\vx$が$\mR^{n}$に属するからといって$\vx$が$n$次元になるとは限りません。例えば,式($\ref{1}$)を満たす$\vx$が一つの重複解を持てば,$\vx$全体の集合の次元は$n-1$になります。

以下では,$A$の行階数を$s$としたときに,$A$から一次独立な行ベクトルを$s$行だけを抽出した行列$A^{\prime}$に対しても,式($\ref{1}$)と同じ$\vx$を用いて

\begin{align}
A^{\prime}\vx &= 0 \label{2}
\end{align}

が成り立つことを示します。このとき,$A^{\prime}$の列階数を$r^{\prime}$とすると,式($\ref{1}$)の退化次数が$n-r$で式($\ref{2}$)の退化次数が$n-r^{\prime}$であり,それらは等しくなければならないことから,$r^{\prime}=r$を導くことができます。線形写像の階数の定義より,$r^{\prime}$は線型写像$L_{A^{\prime}}:~\mR^{n}\rightarrow \mR^{s}$の階数と等しくなることに注意すると,$r^{\prime}$は像の次元の最大値$s$を越えることがないこと,すなわち$r\leq s$を示すことができます。同じ議論を$A$の転置$A^{T}$に対しても適用すると$s\leq r$を示すことができますから,$r=s$を結論することができます。ゆれに我々の目標は,$A$から一次独立な行ベクトルを$s$行だけを抽出した行列$A^{\prime}$に対しても,式($\ref{1}$)と同じ$\vx$を用いて式($\ref{2}$)が成り立つことを示すことになります。

$A$の行階数は,$A$の一次独立な行ベクトルの最大個数ですから,必要があれば番号をつけかえることで$A$の$s$個の行ベクトル$\va^{1},\ldots,\va^{s}$を行空間の基底とすることができます。このとき,基底に選ばれなかった$m-s$個の行ベクトル$\va^{s+1},\ldots,\va^{m}$は,$\va^{1},\ldots,\va^{s}$と一次従属であることから,一次結合で表すことができます。すなわち,$s<k\leq m$なる$k$と,ある実数$c_{k,1},\ldots,c_{k,s}$で

\begin{align}
\va^{k} &= \sum_{i=1}^{s}c_{ki}\va^{i} \label{3}
\end{align}

を満たす$c_{k,1},\ldots,c_{k,s}$が存在します。この一次従属の制約が,行列$A$から$s$個の一次独立な行ベクトルのみを抽出してもよい根拠となります。すなわち,$1\leq i\leq s$なる$k$に対し,

\begin{align}
\va^{i}\vx &= 0 \label{4}
\end{align}

が成り立つとします。このとき,式($\ref{3}$)の右から$\vx$を掛けて式($\ref{4}$)を代入することで,

\begin{align}
\va^{k}\vx &= \sum_{i=1}^{s}c_{ki}(\va^{i}\vx) \\[0.7em]
&= 0
\end{align}

も成り立ちます。これはつまり,一次独立な行ベクトルに対してのみ核を考えれば十分であるということ,すなわち核に対する条件は式($\ref{3}$)で十分であるということを意味しています。したがって,一次独立な行ベクトルからなる

\begin{align}
A^{\prime} &= [\va^{1},\ldots,\va^{s}]^{T}
\end{align}

を用いて式($\ref{2}$)を考えると,式($\ref{1}$)が成り立つことになります。以上と同様の議論を$A^{T}$に対しても行うことで,$s=r$を示すことができます。

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