【過去問解答】2021年統計検定1級<数理統計問5>

統計検定1級の過去問解答解説を行います。目次は以下をご覧ください。

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目次

問題

統計検定1級の過去問からの出題になります。統計検定の問題の著作権は日本統計学会に帰属していますので,本稿にて記載することはできません。「演習問題を俯瞰する」で詳しく紹介している公式の過去問題集をご購入いただきますようお願い致します。

解答

多変量正規分布の独立性に関する出題です。もはや線型代数の問題と言っても過言ではないです。以下のページが参考になるかもしれません。

(1)

\begin{align}
V[\vy] &= LL^{T}
\end{align}

$\vx$の各要素は独立に標準正規分布に従うことから,$O_{n}$を$n\times n$次元ゼロ行列,$I_{n}$を$n$次元単位行列とすると,$\vx$は多変量正規分布である$\N(O_{n},I_{n})$に従います。したがって,分散共分散行列$V[\vx]$が$I_{n}$となることに注意すると,分散共分散行列の性質より,

\begin{align}
V[\vy]
&= V[L\vx]
= LV[\vx]L^{T}
= LI_{n}L^{T}
= LL^{T}
\end{align}

が得られます。

(2)

$LM^{T}=O$が必要十分条件である

まず,多変量正規分布と線形変換の性質から,$L\vx$と$M\vx$も多変量正規分布に従います。次に,多変量正規分布における無相関と独立の性質から,$L\vx$と$M\vx$が無相関であることと独立であることは同値となります。無相関の定義より,行列表記の共分散を用いると,$L\vx$と$M\vx$が独立となる必要十分条件は

\begin{align}
\Cov[L\vx,M\vx] &= O_{n}\label{2-1}
\end{align}

となります。ここで,行列表記の共分散の性質と$\Cov[\vx,\vx]$が$\vx$の分散共分散行列であることを用いると,

\begin{align}
\Cov[L\vx,M\vx] &= L\Cov[\vx,\vx]M^{T} = LI_{n}M^{T} = LM^{T}\label{2-2}
\end{align}

が得られます。式($\ref{2-1}$)と式($\ref{2-2}$)より,$LM^{T}=O$が必要十分条件であることが導かれます。

行列表記の共分散の性質は定義を同値変形していますので,必要十分条件として利用することができます。

(3)

\begin{align}
A &= LM^{T}\left(MM^{T}\right)^{-1}
\end{align}

前問(2)と同様に,$L\vx-AM\vx$と$M\vx$が独立となる必要十分条件は,行列表記の共分散の性質より

\begin{align}
\Cov[L\vx-AM\vx,M\vx] &= L\Cov[\vx,\vx]M^{T}-AM\Cov[\vx,\vx]M^{T}
= LM^{T}-AMM^{T}
= O_{n}
\end{align}

となります。すなわち,

\begin{align}
AMM^{T} &= LM^{T}\label{3-1}
\end{align}

となります。ここで,フルランクな行列は正則であることから,$M$は正則になります。また,ある行列が正則であることと行列式が0でないことは同値であること,積の行列式は行列式の積となること,および転置行列の行列式ともとの行列式は等しくなることから,

\begin{align}
\det(MM^{T}) &= \det(M)\det(M^{T}) = \det(M)^{2} \neq 0
\end{align}

が得られます。したがって,$MM^{T}$は正則となりますので,式($\ref{3-1}$)の右から$MM^{T}$の逆行列を掛けることにより,

\begin{align}
A &= LM^{T}\left(MM^{T}\right)^{-1}
\end{align}

が得られます。

(4)

任意の行列は特異値分解が可能であるため,$M$の特異値分解により,任意の$L,M$に対して条件を満たす$A$が存在する。

任意の行列は特異値分解が可能であることから,$M$の左特異ベクトルを列ベクトルとする行列$U\in\mR^{m\times r}$,右特異ベクトルを列ベクトルとする行列$V\in\mR^{n\times r}$,特異値を対角要素にもつ対角行列$\Sigma\in\mR^{r\times r}$を用いて$M$を特異値分解すると,

\begin{align}
M &= U\Sigma V^{T}
\end{align}

が得られます。これを式($\ref{3-1}$)に代入すると,

\begin{align}
AU\Sigma V^{T}V\Sigma U^{T} &= LV\Sigma U^{T}
\end{align}

が得られます。いま,特異値分解の存在の証明によると,$U$と$V$は直交行列となります。ゆえに,直交行列の転置行列と逆行列が等しくなることを利用すると,

\begin{align}
A &= \left(LV\Sigma U^{T}\right)\left(U\Sigma^{-1}V^{T}V\Sigma^{-1}U^{T}\right)
= LV\Sigma^{-1}U^{T}\label{4-1}
\end{align}

が得られます。ただし,$\Sigma$は特異値を対角要素にもつ対角行列ですので,$r$個の特異値のうち,$s$個の非ゼロの特異値を大きい順に$\sigma_{1},\ldots,\sigma_{s}$とおくと,

\begin{align}
\Sigma^{-1} &=
\begin{bmatrix}
1/\sigma_{1}&&&\\
&\ddots&&&\\
&&1/\sigma_{s}&&&\\
&&&0&&\\
&&&&\ddots&\\
&&&&&0
\end{bmatrix}
\end{align}

となります。したがって,任意の$L,M$に対して条件を満たす$A$が式($\ref{4-1}$)の形で存在することが示されました。

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