本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
代表的な行列分解とその性質
以下では,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表します。
- LU分解 [定義] [存在] [一意性] [求め方]
-
正方行列$A\in\mK^{n\times n}$を下三角行列$L\in\mK^{n\times n}$と上三角行列$U\in\mK^{n\times n}$の積に分解する。
\begin{align}
A &= LU
\end{align} - コレスキー分解 [定義] [存在] [一意性]
-
エルミート行列$A\in\mK^{n\times n}$を下三角行列$L\in\mK^{n\times n}$とその随伴行列$L^{\ast}\in\mK^{n\times n}$の積に分解する。
\begin{align}
A &= LL^{\ast}
\end{align} - グラムシュミット分解 [定義] [存在] [一意性]
-
行列$A\in\mK^{n\times n}$をユニタリ行列$U\in\mK^{n\times n}$と対角成分が正の実数である上三角行列$T\in\mK^{n\times n}$の積に分解する。
\begin{align}
A &= UT
\end{align}ただし,$T$が下三角行列の場合は$A=TU$となる。
- QR分解 [定義] [存在] [一意性]
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行列$A\in\mR^{n\times n}$を直交行列$Q\in\mR^{n\times n}$と対角成分が正の上三角行列$R\in\mR^{n\times n}$の積に分解する。
\begin{align}
A &= QR
\end{align}ただし,$R$が下三角行列の場合は$A=RQ$となる。
- 固有値分解 [定義]
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正方行列$A\in\mK^{n\times n}$をある正則行列$P\in\mK^{n\times n}$と対角行列$\Lambda\in\mK^{n\times n}$を用いて分解する。
\begin{align}
A &= P\Lambda P^{-1}
\end{align} - 特異値分解 [定義] [存在]
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左特異ベクトルを列ベクトルとする行列$U\in\mK^{m\times r}$,右特異ベクトルを列ベクトルとする行列$V\in\mK^{n\times r}$,特異値を対角要素にもつ対角行列を$\Sigma\in\mK^{r\times r}$を用いて行列$A\in\mK^{m\times n}$もしくは$A^{\ast}\in\mK^{n\times m}$を分解する。
\begin{align}
A &= U\Sigma V^{\ast},\quad A^{\ast} = V\Sigma U^{\ast}
\end{align}
コレスキー分解はLU分解において対称行列を扱うケース,QR分解はグラムシュミット分解において実行列を扱うケースに相当します。
補足
上の六つの行列分解は,以下のように分類して理解するとよいでしょう。
- 正方行列の分解
- LU分解・コレスキー分解
- 一般の行列の分解
- グラムシュミット分解・QR分解
- 固有値に関連する分解
- 固有値分解・特異値分解
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