【徹底解説】コーシーの収束条件とワイヤストラスの公理の関係

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

コーシーの収束条件とワイヤストラスの公理の関係性

コーシーの収束条件アルキメデスの原理を認める立場を取ると,ワイヤストラスの公理が成り立つ。

併せて連続性の公理もご確認ください。

証明

我々の目的は,コーシーの収束条件アルキメデスの原理からワイヤストラスの公理を示すことです。すなわち,$A$に上限が存在することを示します。ワイヤストラスの定理では上に有界な集合,コーシーの収束条件ではコーシー列を利用しますので,まずは上に有界な集合$A\neq\phi$に基づいてコーシー列を作りましょう。やや天下り的ですが,$A$の上界の集合$B$の要素を使ってコーシー列となるような$(b_{n})_{n\in\mN}$を,$B$の補集合$C$の要素を使ってコーシー列となるような$(c_{n})_{n\in\mN}$を作ることを考えます。こうすることで,$A$の上限を,上界の集合$B$によって上からおさえると同時に,$B$の補集合$C$によって下からおさえることができるため,上限の存在を示すことができそうです。すなわち,直近の目標は

\begin{align}
c_{0}\leq c_{1} \leq\cdots\leq c_{n}\leq b_{n}\leq \cdots\leq b_{1}\leq b_{0}\label{順序}
\end{align}

となる$(b_{n})$と$(c_{n})$を作ることです。そのために,まずは

\begin{align}
c<a\leq b\label{最低限の順序}
\end{align}

を示しましょう。$B$と$C$の要素を利用したいため,それぞれが空集合でないことを確認しておきます。$B$に関しては,$A$が上に有界であることから,$B{\neq}\phi$となります。$C$に関しては,$a{\in}A$に対して少なくとも$a{-}1{\in}C$となることから,$C{\neq}\phi$となります。

$a{-}1{\in}C$に関して補足をしておきます。もし$a{-}1{\notin}C$と仮定すると,$C$が$B$の補集合であることから,$a{-}1{\in}B$となります。$B$の定義より,$B$の要素に正数を足しても$B$の要素となることから,$a{\in}B$となります。これは$a{\in}A$に矛盾します。したがって,$a{-}1{\in}C$となります。

いま,$C$が$A$の上界になり得ない$x{\in}\mR$の集合であることに注意すると,任意の$b{\in}B$,$c{\in}C$に対して,$c{<}a$となる$a{\in}A$が存在します。また,$B$は$A$の上界の集合でしたから,$a{\leq}b$が成り立ちます。したがって,式($\ref{最低限の順序}$)が成り立ちます。

これで,式($\ref{順序}$)をみたす$(b_{n})$と$(c_{n})$を作る準備が整いました。まず,$b_{0}{\in}B$と$c_{0}{\in}C$を適当に取り,帰納的に$b_{1},b_{2},\ldots$と$c_{1},c_{2},\ldots$を定めていきます。$b_{n},c_{n}$まで定まったとき,これらの中点

\begin{align}
d_{n} &= \frac{b_{n}+c_{n}}{2}
\end{align}

を考えます。$d_{n}{\in}B\cap C$ですので,少なくとも$d_{n}{\in}B$もしくは$d_{n}{\in}C$の一方が成り立ちます。ですので,$d_{n}$は$b_{n+1}$もしくは$c_{n+1}$の候補となります。具体的には,

  • $d_{n}\in B$ならば$b_{n+1}=d_{n},~c_{n+1}=c_{n}$
  • $d_{n}\in C$ならば$b_{n+1}=b_{n},~c_{n+1}=d_{n}$

とおくと,$c_{n}{\leq}d_{n}{\leq}b_{n}$となりますから,$(b_{n})$は単調減少列,$(c_{n})$は単調増加列となります。すなわち,式($\ref{順序}$)が成り立ちます。すると,$p,q{\geq}n$のとき

\begin{align}
|b_{p}-b_{q}|&\leq b_{n}-c_{n}\leq \frac{b_{0}-c_{0}}{2^{n}}\label{コーシー1}\\[0.7em]
|c_{p}-c_{q}|&\leq b_{n}-c_{n}\leq \frac{b_{0}-c_{0}}{2^{n}}\label{コーシー2}
\end{align}

が成り立ちます。ここで,アルキメデスの原理より

\begin{align}
\lim_{n\rarr\infty}\frac{b_{0}-c_{0}}{2^{n}} &= 0\label{アルキメデス}
\end{align}

が成り立ちますので,$(b_{n})$と$(c_{n})$はコーシー列となります。ここまできて,ようやくコーシーの収束条件を使う準備が整いました。コーシーの収束条件より,コーシー列は収束しますから,

\begin{align}
\lim_{n\rarr\infty}b_{n}&=b,\quad \lim_{n\rarr\infty}c_{n}=c
\end{align}

が$\mR$内に存在します。しかし,式($\ref{コーシー1}$),式($\ref{コーシー2}$),式($\ref{アルキメデス}$)と収束の定義に注意すると,$b{=}c$でなくてはなりません。このとき,もし

\begin{align}
b &= c = \sup A\label{後半目標}
\end{align}

であることが示せれば,上限の定義より,任意の$x<b$に対して$x{<}c_{n}{<}b$となる$n$が存在します。$c_{n}{\in}C$は$A$の上界ではないことから,

\begin{align}
x<c_{n}<a\leq b
\end{align}

をみたす$a{\in}A$が存在します。すなわち,任意の$x$に対し$x{<}a$となる$a{\in}A$が存在しますから,$x$は$A$の上界ではありません。したがって,$x{<}b$に注意すると,$b$が$A$の上界の最小元,すなわち上限であることが示せます。したがって,最後の目標は式($\ref{後半目標}$)を示すことです。

そもそも,$b_{n}$と$c_{n}$の定義から,全ての$n$に対して$b_{n}{\in}B$と$c_{n}{\in}C$が成り立ちますが,$B$は$A$の上界の集合でしたので,全ての$a{\in}A$と全ての$n{\in}\mN$に対して

\begin{align}
a\leq b_{n}
\end{align}

が成り立ちます。したがって,$n{\rarr}\infty$としても,全ての$a{\in}A$に対して

\begin{align}
a\leq b
\end{align}

が成り立ちます。すなわち,$b$が$A$の上界であることが示され,式($\ref{後半目標}$)が成り立つことが示されました。

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