本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
双一次形式の行列による表現
$V$を$\mK$上のベクトル空間,$f$を$V$上の双一次形式または共役双一次形式とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。$\beta$を$V$の一つの基底とし,$A$を$\beta$に関する$f$の表現行列とする。$u,v$を$V$の任意の元とし,これらの$\beta$に関する座標ベクトルをそれぞれ
[u]_{\beta}&=\vx&&=[x_{1},\ldots,x_{n}]^{T}\\[0.7em]
[v]_{\beta}&=\vy&&=[y_{1},\ldots,y_{n}]^{T}
\end{alignat}
とする。このとき,$f$が双一次形式ならば
f(u, v) &= \vx^{T}A\vy
\end{align}
が成り立ち,$f$が共役双一次形式ならば
f(u, v) &= \overline{\vx}^{T}A\vy
\end{align}
が成り立つ。
多くの書籍や資料では証明せずに用いられる定理です。
証明
座標ベクトルの定義より,
u=\sum_{i=1}^{n}x_{i}v_{i},\quad v=\sum_{i=1}^{n}y_{i}v_{i}
\end{align}
が成り立ちます。$f$が双一次形式のときは,双一次形式の定義と一次形式の表現行列の定義より,すべての$i{=}1,\ldots,m$とすべての$j{=}1,\ldots,n$に対して
f(x_{i}v_{i},y_{j}v_{j}) = x_{i}y_{j}f(v_{i},v_{j}) = x_{i}a_{ij}y_{j}
\end{align}
が成り立ちます。同様に,$f$が共役双一次形式のときは,
f(x_{i}v_{i},y_{j}v_{j}) = \ox_{i}y_{j}f(v_{i},v_{j}) = \ox_{i}a_{ij}y_{j}
\end{align}
が成り立ちます。したがって,行列積の定義より,$f$が双一次形式のときは
f(u,v) &= \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}x_{i}a_{ij}y_{j}\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}\left(x_{i}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}y_{j}\right)\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}x_{i}A_{i}\vy\\[0.7em]
&= \vx^{T}A\vy
\end{align}
が成り立ちます。ただし,$A_{i}$は$A$の第$i$行目を表しています。$f$が共役双一次形式のときは,
f(u,v) &= \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\ox_{i}a_{ij}y_{j}\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}\left(\ox_{i}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}y_{j}\right)\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}\ox_{i}A_{i}\vy\\[0.7em]
&= \overline{\vx}^{T}A\vy
\end{align}
が成り立ちます。
補足
逆に,ある正方行列$A=(a_{ij})\in M_{n}(\mK^{n})$に対し,
f(\vx,\vy) &= \vx^{T}A\vy
\end{align}
で定義される写像$f:\mK^{n}\times\mK^{n}$を双一次形式と定義することもできます。ただし,$M_{n}(\mK^{n})$は$\mK$上の$n$次元正方行列全体の集合を表します。同様に,
f(\vx,\vy) &= \overline{\vx}^{T}A\vy
\end{align}
で定義される写像$f:\mK^{n}\times\mK^{n}$を共役双一次形式と定義することもできます。
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