基本情報
| タイトル | 優れたリーダーはなぜ傾聴力を磨くのか? |
|---|---|
| 著者 | 林 健太郎 |
| 出版社 | 三笠書房 |
| 発売日 | 2022年06月29日 |
| ページ数 | 248ページ |
はじめに
私が読書を始めたキッカケや他に読んだ書籍については,以下のページにまとめています。

概要

感想
本書はリーダー育成家である著者により,傾聴は職場の心理的安全性を高めるための手段としてリーダーに求められるということを説明する書籍である。『心理学に学ぶ鏡の傾聴』でも述べられている通り,傾聴とは本来「相手を動かそう」として行うものではない。そのため,本書の主題は一見,傾聴の原理原則には反しているともいえる。しかし,傾聴がこれほどまでに世の中に広まったのは,傾聴の持つ実践的な側面が注目されたからに他ならない。原理を重んじることも大切だが,本書のように実用的な側に光を当て,日常で活用しやすくした書籍もまた,十分に価値があるものと考えられる。ただ個人的には,タイトルに「傾聴」と入れている割には傾聴の本質に踏み込んだ記述は少なく,主張を薄く引き延ばしたような印象が拭えなかった。
『いい質問が部下を動かす』でも述べられているが,本書でも会社における傾聴の場では時間設定や目的を持つことが大切だとされている。しかし,自分自身の経験上,話し手もしくは聴き手が時間やゴールを気にした場では,話し手はそれらを気にしてしまって本音を話しにくくなってしまうことが多い。当然,ミーティングの場などではゴールと時間を守ることが最低限のルールではあるが,傾聴の大前提には「お互いの時間を気にせず,目的もなくただ話を聴く」ことが肝要であると考えている。結果として,話し手が聴き手を尊重して自ら話の場を切り上げるような流れになるだろう。
上司と部下の1on1では,何らかの問題を解決することを目指すケースがあるが,本来は部下が主体的に動けるようにサポートすることを目指すべきである。1on1の場で安易にアドバイスを行うといった関わり方では,部下の自主性は生まれてこない。また,『心理学に学ぶ鏡の傾聴』や『「ねえ、私の話聞いてる?」と言われない「聴く力」の強化書』でも述べられている通り,部下の話を聴く上では事実ではなく「気持ち」に着目する必要がある。上司にとっては「別に何も?」と軽くあしらわれてしまいそうで怖いという場合もあるが,初回の問いかけで心の内を開示してくれることはほとんどないだろう。上司と部下の信頼関係は徐々に構築していくものである。初回で軽くあしらわれてしまっても,「今日は気持ちを話したくない気分なのだな」と気にせず撤退して,次回再チャレンジすればいいだけの話である。
自分自身にとっても耳が痛い話だが,部下の話を途中で遮って早合点してしまうのは厳禁である。話を最後まで聴くという基本さえ守れない場合,部下からの信頼を獲得して本音を引き出すことは難しいだろう。
傾聴には複数の定義があるが,本書では「傾聴の本質は,相手に静かな時間を提供すること」としている。部下に自分と向き合う時間を提供するのだ。静かな時間とは,最も単純には沈黙が該当するが,非言語的コミュニケーションを活用しながら「私はあなたの話を真剣に聴いていますよ」という穏やかな目や仕草を意識すれば,沈黙はむしろ話し手が自身と向き合う時間を提供する効果を発揮する。
本書では,部下の話を聴くときの手順として次を挙げている。特に,最初の「静かな時間」を提供する手順が最も大切だ。筆者曰く「一丁目一番地」である。何があってもこの「静かな時間」の提供に戻れば,傾聴を立て直すことができる。
- 「静かな時間」を提供する
- 復唱から始める
- 承認の言葉を使う
- 合いの手を入れる
- 未来を問う
- 感情を問う
- 洞察を促す
- 方向性を例示する
- 意見を聴く
- 笑って接する
本書は傾聴の本質を学術的に詳述する解説書ではなく,あくまで実働に即した実用書である。ゆえに,「傾聴は万能ではなく,状況に応じて自ら指示を出す決断を下すべきである」という現実的な立場をとっている。カウンセリングにおいては,徹底して聴き手に徹することが原則となるが,ビジネスにおける傾聴では,必然的に合理性の比重が高まる。企業は利益を追求する機能体であり,セラピーの場ではないからだ。
『心理学に学ぶ鏡の傾聴』でも述べられている通り,上司が傾聴を行うためには上司自身が自分と向き合う必要がある。この概念は自己一致とも呼ばれており,詳しくは『心理学に学ぶ鏡の傾聴』を参照されたい。その上で,本書では自分の心の声を「事実情報」「思考」「感情」の3つに分類するとよいとしている。このように「分類することでメタ認知する」という手法は『精神科医が教える聴く技術』でも使われているため,参照されたい。

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