本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
コーシーの収束条件
実数列$(a_{n})_{n\in\mN}$が収束するための必要十分条件は,$(a_{n})$がコーシー列となることである。
連続性の公理の同値な条件の一部として機能する定理になります。
証明
必要性と十分性に分けて証明していきます。
実数列が収束するならばコーシー列
収束の定義より,実数列$(a_{n})$が$a$に収束するならば,任意の$\varepsilon$に対し$n_{0}\in\mN$が存在して,$n\geq n_{0}$のとき
|a-a_{n}| &< \frac{\varepsilon}{2}
\end{align}
が成り立ちます。絶対値の性質に注意すると,$m,n\geq n_{0}$のとき
|a_{m}-a_{n}| = |(a_{m}-a)+(a-a_{n})| &\leq |a_{m}-a| + |a-a_{n}|\\[0.7em]
&= |a-a_{m}| + |a-a_{n}|< \frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon
\end{align}
となります。したがって,コーシー列の定義より$(a_{n})$はコーシー列となります。
コーシー列ならば実数列は収束する
コーシー列の性質より,$(a_{n})$は有界になります。すると,ボルツァーノ・ワイヤストラスの定理より,$(a_{n})$は収束する部分列を持ちます。このとき,コーシー列の性質より,部分列の元になったコーシー列も収束します。
補足
ボルツァーノ・ワイヤストラスの定理は,実数列に対して適用される定理です。そのため,コーシー列ならば実数列は収束する十分性に関しては,実数体以外で成り立たない順序体が存在します。例えば,
a_{0}=1,\quad a_{1}=1.4,\quad a_{2}=1.414,\quad a_{3}=1.4142
\end{align}
は$\sqrt{2}$の十進表示の小数点$n$桁までを$a_{n}$と定義した数列で,有理数体上で定義されます。いま,ある$m,n$に対して$n<m$とすると,$|a_{m}-a_{n}|$は$\sqrt{2}$の小数点$n$桁目から$m$桁目を表しています。$\sqrt{2}$は無理数であることから,十分大きな$m,n$を取れば,任意の$\varepsilon$に対し$n_{0}\in\mN$が存在して,$m,n\geq n_{0}$のとき$|a_{m}-a_{n}|<\varepsilon$とすることができます。したがって,$(a_{n})$はコーシー列となります。一方,$(a_{n})$の極限は$\sqrt{2}$であり有理数体には含まれません。
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