【徹底解説】相違なる固有値と広義の固有ベクトル

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

相違なる固有値と広義の固有ベクトル

$V$を$\mK$上の$n$次元内積空間とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。$F$を$V$の線型変換とし,$F$の相違なる固有値を$\alpha_{1},\ldots,\alpha_{s}$,それらに対する広義の固有ベクトルを$v_{1},\ldots,v_{s}$とする。このとき,$v_{1},\ldots,v_{s}$は一次独立になる。

相異なる固有値に対する広義の固有ベクトルは一次独立になるという定理です。

証明

$s$に関する帰納法を利用します。$s=1$のときは,固有ベクトルは$v_{1}$だけになるため,明らかに上の主張が成り立ちます。$s\geq 2$とし,$v_{1},\ldots,v_{s-1}$が一次独立であると仮定します。このとき,

\begin{align}
c_{1}v_{1}+\cdots+c_{s}v_{s} &= 0\label{目標}
\end{align}

を考えます。いま,$v_{s}$は$\alpha_{s}$の広義の固有ベクトルですから,広義の固有ベクトルの定義より

\begin{align}
(F-\alpha_{s}I)^{l}(v_{s})
\end{align}

を満たすような正の整数$l$が存在します。これを利用するため,式($\ref{目標}$)の両辺の$(F-\alpha_{s}I)^{l}$による像を考えます。$(F-\alpha_{s}I)^{l}$は線型写像の合成なので線形写像であることに注意すると,

\begin{align}
&(F-\alpha_{s}I)^{l}(c_{1}v_{1}+\cdots+c_{s}v_{s})\notag\\[0.7em]
&=c_{1}(F-\alpha_{s}I)^{l}(v_{1})+\cdots+c_{s-1}(F-\alpha_{s-1}I)^{l}(v_{s})+c_{s}(F-\alpha_{s}I)^{l}(v_{s})\\[0.7em]
&= c_{1}(F-\alpha_{s}I)^{l}(v_{1})+\cdots+c_{s-1}(F-\alpha_{s-1}I)^{l}(v_{s})\label{結果}
\end{align}

と表されます。いま,$1\leq i\leq s-1$を満たす$i$に対して$(F-\alpha_{i}I)^{l}(v_{i})=v^{\prime}_{i}$とおくと,式($\ref{結果}$)は

\begin{align}
c_{1}v^{\prime}_{1}+\cdots+c_{s-1}v^{\prime}_{s-1} &= 0
\end{align}

と表されます。ここで,広義の固有ベクトルの拡張を利用すると,$v^{\prime}_{i}$もまた$\alpha_{i}$の広義の固有ベクトルになりますので,仮定法の仮定より$c_{1}=\cdots=c_{s-1}=0$が得られます。これを式($\ref{目標}$)に代入すると,$c_{s}=0$が得られます。したがって,式($\ref{目標}$)を満たす$v_{1},\ldots v_{s}$は一次独立になります。以上より,帰納法から任意の$s$に対して上の主張が成り立つことが示されました。

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