本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
広義の固有ベクトルの拡張
$V$を$\mK$上の$n$次元内積空間とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。$F$を$V$の線型変換とし,$\alpha$を$F$の固有値の一つ,$v$を固有値$\alpha$に対する$F$の広義の固有ベクトルとする。このとき,$\alpha$と異なる任意のスカラー$\beta$および任意の正の整数$m$に対して
v^{\prime} &= (F-\beta I)^{m}(v)\label{主題}
\end{align}
も$\alpha$に対する広義の固有ベクトルである。
分解定理の証明に利用される定理です。
証明
まず,表記を簡単にするために
G &= \alpha I-F\\[0.7em]
H &= F-\beta I
\end{align}
とおくと,$GH=HG$となりますので$G,H$は可換です。$G$と$H$で符号が反対になっているのは,後で可換な線型変換の合成と核の性質を利用するためです。さて,$v$は広義の固有ベクトルですので,ある正の整数$l$に対して
(-G)^{l}(v) &= 0\label{仮定1}
\end{align}
が成り立ちます。これより,$G,H$が可換であることに注意すると,
(F-\alpha I)^{l}(v^{\prime}) &= (-G)^{l}(v^{\prime})\\[0.7em]
&= (-G)^{l}H^{m}(v)\\[0.7em]
&= H^{m}(-G)^{l}(v)\\[0.7em]
&= H^{m}(0)\\[0.7em]
&= 0
\end{align}
が成り立ちます。あとは,$v^{\prime}$が広義の固有ベクトルであることを示すためには$v^{\prime}\neq 0$を示せばよいだけになりました。背理法を利用して証明しましょう。もし,$v^{\prime}=0$が成り立つならば,式($\ref{主題}$)より
H^{m}(v) &= 0\label{仮定2}
\end{align}
となります。式($\ref{仮定1}$)と式($\ref{仮定2}$)に注目すると,可換な線型変換の合成と核の性質より,
(H+G)^{t}(v) &= (\alpha-\beta)^{t}I^{t}(v)\\[0.7em]
&= (\alpha-\beta)^{t}v\\[0.7em]
&=0 \label{矛盾}
\end{align}
を満たすような正の整数$t$が存在しなくてはなりません。しかし,$\beta$は$\alpha$とは異なり,かつ$v$は広義固有ベクトルであるため$0$にはなりませんので,式($\ref{矛盾}$)は必ず成り立ちません。したがって,背理法より$v^{\prime}=0$となります。すなわち,$v^{\prime}$が広義固有ベクトルであることが示されました。
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