【過去問解答】2021年統計検定1級<数理統計問3>

統計検定1級の過去問解答解説を行います。目次は以下をご覧ください。

不適切な内容があれば,記事下のコメント欄またはお問い合わせフォームよりご連絡下さい。

目次

問題

統計検定1級の過去問からの出題になります。統計検定の問題の著作権は日本統計学会に帰属していますので,本稿にて記載することはできません。「演習問題を俯瞰する」で詳しく紹介している公式の過去問題集をご購入いただきますようお願い致します。

解答

ポアソン分布の信頼区間と最尤推定値に関する出題です。

(1)

モーメント母関数の定義より,ポアソン分布のモーメント母関数は以下のように計算される。

\begin{align}
M_{X}(s) &= E[e^{sX}] \\[0.7em]
&= \sum_{x=0}^{\infty}e^{sx}\frac{\lambda^{x}e^{-\lambda}}{x!}\\[0.7em]
&= e^{-\lambda}\sum_{x=0}^{\infty}\frac{(e^{s}\lambda)^{x}}{x!}\\[0.7em]
&= e^{-\lambda}e^{e^{s}\lambda}\\[0.7em]
&= \exp\left[\lambda(e^{s}-1)\right]
\end{align}

ただし,$e^{x}$のマクローリン展開を利用した。

\begin{align}
e^{x} &= 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^{2}}{2!} + \cdots
\end{align}

ポアソン分布に関して下記のページで解説していますので,ご参照ください。

上記ページではモーメント母関数ではなく確率母関数を求めています。これは,離散型確率変数に対しては,モーメント母関数ではなく確率母関数を利用することが多いためです。

(2-1)

モーメント母関数の定義より,

\begin{align}
M_{T}(s) &= M_{X_{1}}(s)\cdots M_{X_{n}}(s) = \exp[n\lambda(e^{s}-1)]
\end{align}

となる。$M_{T}(s)$は$\Po(n\lambda)$のモーメント母関数を表しているため,モーメント母関数の一意性より$T$は$\Po(n\lambda)$に従うことがわかる。

ポアソン分布の再生性を示す問題です。前問で求めたモーメント母関数を利用しましょう。モーメント母関数の一意性に関しては,下記の記事をご参照ください。

(2-2)

互いに独立にポアソン分布$\Po(\lambda)$に従う$\mX=(X_{1},\ldots,X_{n})$を要素にもつ$n$次元ベクトルを$\mX$とおく。このとき,$\mX$の確率質量関数は,

\begin{align}
P(\mX=\vx) &= \prod_{i=1}^{n}\frac{\lambda^{x_{i}}}{x_{i}!}e^{-\lambda}\\[0.7em]
&= \lambda^{\sum_{i=1}^{n}x_{i}}e^{-n\lambda}\cdot\left(\prod_{i=1}^{n}x_{i}!\right)^{-1}\\[0.7em]
&= \lambda^{t}e^{-n\lambda}\cdot\left(\prod_{i=1}^{n}x_{i}!\right)^{-1}\\[0.7em]
&= g_{\lambda}(t;\lambda)\cdot h(x)
\end{align}

のように変形できる。ただし,

\begin{align}
g_{\lambda}(t;\lambda) &= \lambda^{t}e^{-n\lambda}\\[0.7em]
h(x) &= \left(\prod_{i=1}^{n}x_{i}!\right)^{-1}
\end{align}

とおいた。したがって,フィッシャー・ネイマンの因子分解定理より,$T$は$\lambda$の十分統計量であることが示された。

ある統計量が十分統計量であることを示すためには,十分統計量の定義にしたがって条件つき確率を愚直に計算してもよいのですが,フィッシャー・ネイマンの因子分解定理を利用する方がずっと楽に示すことができます。

(2-3)

対数尤度を最大にする$\lambda$を求める。対数尤度は

\begin{align}
\ln L(\lambda) &= \ln \prod_{i=1}^{n}\frac{\lambda^{x_{i}}}{x_{i}!}e^{-\lambda}\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}\ln\frac{\lambda^{x_{i}}}{x_{i}!}e^{-\lambda}\\[0.7em]
&= \sum_{i=1}^{n}x_{i}\ln\lambda-n\lambda-\sum_{i=1}^{n}\ln x_{i}!\\[0.7em]
&\propto \ln\lambda\cdot T-n\lambda
\end{align}

と変形できる。対数尤度を$\lambda$で微分して$0$とおくと,

\begin{align}
\frac{d}{d\lambda}\ln L(\lambda) &= \frac{t}{\lambda}-n = 0
\end{align}

となる。したがって,実現値$t$を確率変数$T$として表すと,

\begin{align}
\hat{\lambda} &= \frac{T}{n}
\end{align}

が得られる。

対数尤度の導関数が$0$となる点は,あくまでも対数尤度を最大 or 最小にする候補点でしかありませんが,わざわざ増減表を書いて$\hat{\lambda}$が対数尤度を最大にすることを示す必要はないでしょう。時間が余れば追記するくらいの温度感です。

(3)

$T=t$,$c=2$として信頼区間の上下限を求めるため,

\begin{align}
\left|\frac{t-n\lambda}{\sqrt{n\lambda}}\right| \leq 2\label{信頼区間}
\end{align}

を解く。両辺を二乗して整理すると,

\begin{align}
\lambda^{2}-\frac{2(t+2)}{n}\lambda+\left(\frac{t}{n}\right)^{2}\leq 0
\end{align}

が得られる。$\lambda$の信頼係数$100(1-\alpha)\%$の信頼区間の下限を$\hat{\lambda}_{L}$,上限を$\hat{\lambda}_{U}$とおくと,

\begin{cases}
\displaystyle
\hat{\lambda}_{L} = \frac{t+2-2\sqrt{t+1}}{n}\\[0.7em]
\displaystyle
\hat{\lambda}_{U} = \frac{t+2+2\sqrt{t+1}}{n}
\end{cases}

が得られる。

$c$は$\N(0,1)$の上側$100(\alpha/2)\%$点ですので,信頼区間を求めるためには$\lambda$を変数として式($\ref{信頼区間}$)を解けばよいです。

(4)

前問(2-3)より$\lambda$の最尤推定値は$t/n$,前問(3)より信頼区間の中点は$(t+2)/n$となる。すなわち,信頼区間の中点は$\lambda$の最尤推定値よりもやや大きい値を取る可能性が高いことが分かる。ただし,$n$が十分大きいときは両者はほぼ同じ値を取る可能性が高いと考えられる。

信頼区間の中点は

\begin{align}
\frac{t}{n}+\frac{2}{n} &= \hat{\lambda} + \frac{2}{n}
\end{align}

となり,$n$が十分大きいときには信頼区間の中点と$\lambda$の最尤推定値はほぼ等しい値を取ることが分かります。

シェアはこちらからお願いします!

コメント

コメントする

※ Please enter your comments in Japanese to distinguish from spam.

目次