【過去問解答】2018年統計検定1級<数理統計問4>

統計検定1級の過去問解答解説を行います。目次は以下をご覧ください。

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目次

問題

統計検定1級の過去問からの出題になります。統計検定の問題の著作権は日本統計学会に帰属していますので,本稿にて記載することはできません。「演習問題を俯瞰する」で詳しく紹介している公式の過去問題集をご購入いただきますようお願い致します。

解答

条件付き2変量正規分布とマルコフ性に関する出題でした。

(1)

\begin{align}
f(y) &= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{y^{2}}{2}\right)
\end{align}

条件付き確率関数の定義より,指数部分を平方完成することにより,

\begin{align}
f(y)
&= \int_{-\infty}^{\infty}f(y|x)f(x)dx\\[0.7em]
&= \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi(1-\rho^{2})}}\exp\left\{-\frac{(y-\rho x)^{2}}{2(1-\rho^{2})}\right\}
\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{x^{2}}{2}\right)dx\\[0.7em]
&=\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi(1-\rho^{2})}}\exp\left\{-\frac{y^{2}-2\rho xy+\rho^{2}x^{2}+x^{2}-\rho^{2}x^{2}}{2(1-\rho^{2})}\right\}dx\\[0.7em]
&=\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi(1-\rho^{2})}}\exp\left\{-\frac{(x-\rho y)^{2}+(1-\rho^{2})y^{2}}{2(1-\rho^{2})}\right\}dx\\[0.7em]
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{y^{2}}{2}\right)\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{2\pi(1-\rho^{2})}}\exp\left\{-\frac{(x-\rho y)^{2}}{2(1-\rho^{2})}\right\}dx\\[0.7em]
&= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\exp\left(-\frac{y^{2}}{2}\right)
\end{align}

となります。したがって,$y$の周辺分布は標準正規分布となります。

補足

正規分布の条件付き分布が正規分布となることを利用すれば,期待値と分散を求めればよいです。条件付き期待値の性質より,

\begin{align}
E_{Y}[Y] &= E_{X}[E_{Y}[Y|X]] = E_{X}[\rho X] = \rho E_{X}[X] = 0
\end{align}

が得られます。同様に,

\begin{align}
V_{Y}[Y] &= E_{X}[V_{Y}[Y|X]]+V_{X}[E_{Y}[Y|X]] = E_{X}[1-\rho^{2}]+V_{X}[\rho X] = (1-\rho^{2})+\rho^{2} = 1
\end{align}

が得られます。したがって,$Y\sim\N(0,1)$となります。

(2)

小問(1)より正規分布に従う$X_{t}$が与えられたときの$Y_{t}$は正規分布に従う。同様に,正規分布に従う$Y_{t}$が与えられたときの$X_{t+1}$は正規分布に従う。したがって,正規分布に従う$X_{t}$が与えられたときの$X_{t+1}$は正規分布に従う。以上より,小問(1)の別解のように期待値と分散を求めればよい。条件付き期待値の性質より,

\begin{align}
E_{X_{t+1}}[X_{t+1}] &= E_{Y_{t}}[E_{X_{t+1}}[X_{t+1}|Y_{t}]]
= E_{Y_{t}}[\rho Y_{t}]
= \rho E_{Y_{t}}[Y_{t}]
\end{align}

が得られる。ただし,マルコフ性より$E_{X_{t+1}}[X_{t+1}|Y_{t}]{=}\rho y_{t}$を用いた。したがって,

\begin{align}
E_{X_{t+1}}[X_{t+1}|X_{t}] &= \rho E_{Y_{t}}[Y_{t}|X_{t}] = \rho^{2}x_{t}
\end{align}

が得られる。これも,マルコフ性より$E_{X_{t+1}}[Y_{t}|X_{t}]{=}\rho x_{t}$を用いた。同様に,

\begin{align}
V_{X_{t+1}}[X_{t+1}] &= E_{Y_{t}}[V_{X_{t+1}}[X_{t+1}|Y_{t}]]+V_{Y_{t}}[E_{X_{t+1}}[X_{t+1}|Y_{t}]]\\[0.7em]
&= E_{Y_{t}}[1-\rho^{2}]+V_{Y_{t}}[\rho Y_{t}] = (1-\rho^{2})+\rho^{2}E[Y_{t}]
\end{align}

が得られる。したがって,

\begin{align}
V_{X_{t+1}}[X_{t+1}|X_{t}] &= (1-\rho^{2})+\rho^{2}E[Y_{t}|X_{t}] = (1-\rho^{2})+\rho^{2}(1-\rho^{2}) = 1-\rho^{4}
\end{align}

が得られ,$X_{t}|X_{t+1}\sim\N(\rho^{2}x_{t},1-\rho^{4})$となる。

$X_{t+1}$は直前の$Y_{t}$に従うというマルコフ性に関し,条件を一つ飛ばして$X_{t}$を与える問題です。

(3)

帰納法を用いる。$t=0$のときに与式が成り立つことは,小問(2)の結果を用いて示される。$t=k$のときに$X_{k}|X_{0}$が$\N(\rho^{2k}x_{k},1-\rho^{4k})$に従うと仮定すると,小問(2)の結果を用いることで,

\begin{align}
E_{X_{k+1}}[X_{k+1}] &= E_{X_{t}}[E_{X_{t+1}}[X_{t+1}|X_{t}]]
= E_{X_{t}}[\rho^{2}X_{t}] = \rho^{2}E[X_{t}]
\end{align}

が得られるため,

\begin{align}
E_{X_{k+1}}[X_{k+1}|X_{0}] &= \rho^{2}E[X_{t}|X_{0}] = \rho^{2}\rho^{2k}x_{0} = \rho^{2(k+1)}x_{0}
\end{align}

となる。同様に,

\begin{align}
V_{X_{k+1}}[X_{k+1}] &= E_{X_{k}}[V_{X_{k+1}}[X_{k+1}|X_{k}]]+V_{X_{k}}[E_{X_{k+1}}[X_{k+1}|Y_{k}]]\\[0.7em]
&= E_{X_{k}}[1-\rho^{2}]+V_{X_{k}}[\rho^{2} X_{k}] = (1-\rho^{2})+\rho^{2}V[X_{k}]
\end{align}

が得られるため,

\begin{align}
V_{X_{k+1}}[X_{k+1}|X_{0}] &{=} (1-\rho^{4})+\rho^{4}E[X_{k}|X_{0}] = (1-\rho^{4})+\rho^{4}(1-\rho^{4k}) = 1-\rho^{4(k+1)}
\end{align}

となる。以上より,$t{=}k{+}1$のときに与式が成り立つため,帰納法より任意の$t$に対し与式が成り立つことが示された。$0{<}\rho{<}1$より,$\N(\rho^{2t}x_{0},1{-}\rho^{4t})$は$t\rarr\infty$のとき標準正規分布$\N(0,1)$に近づく。

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