【徹底解説】テプリッツの定理<実内積空間>

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

テプリッツの定理<実内積空間>

$V$を$n$次元実内積空間,$F$を$V$の線型変換とする。$F$が$V$の適当な正規直交基底に関して対角行列で表現されるための必要十分条件は,$F$が対称変換であることである。

実数空間においてはエルミート変換と対称変換は同等なので,$F$がエルミート変換とする場合もあります。複素内積空間におけるテプリッツの定理もおさえておきましょう。

証明

$F$が$V$のある正規直交基底$\beta$に関して対角行列

\begin{align}
A &=
\begin{bmatrix}
\alpha_{1}&&\\
&\ddots&\\
&&\alpha_{n}
\end{bmatrix}\label{対角}
\end{align}

で表現されるとします。ただし,$\alpha_{1},\ldots,\alpha_{n}$は実数とします。このとき,表現行列の定義より,$F$の随伴変換$F^{\ast}$は$A^{T}$と等しくなりますが,式($\ref{対角}$)より$A^{T}=A$となります。すなわち,$F$の表現行列と$F^{\ast}$の表現行列は等しくなります。線形写像とある基底に関する表現行列は一対一対応しますので,$F=F^{\ast}$となります。すなわち,$F$は対称変換になります。

逆に,対称変換$F$が適当な正規直交基底によって対角化されることを帰納法により証明します。表現行列が対角化可能であることと基底がすべて固有ベクトルから構成されることは同等であることから,$F$の固有ベクトルから成るような正規直交基底が存在することを帰納法により示します。

$n=1$のときは,明らかに$F$の固有ベクトルを正規化したものは$V$の正規直交基底になります。$n\geq 2$に対し$n-1$次元の場合には上の主張が成り立つと仮定します。対称変換が実エルミート変換であることに注意すると,エルミート変換の固有値より$F$は固有値をもちます。そこで,$F$の一つの固有ベクトルを$\tilde{v}$とし,

\begin{align}
W &= \langle\tilde{v}\rangle^{T}
\end{align}

とおきます。すると,$W$は$V$の$n-1$次元の部分空間で

\begin{align}
V &= W\oplus\langle\tilde{v}\rangle^{T}\label{直和}
\end{align}

となります。このとき,$W$は$F$に関して不変になります。実際,$v\in W$に対して$(v|\tilde{v}){=}0$となりますが,上で言及した通り$F(\tilde{v})=\alpha\tilde{v}$となるような$F$の固有値$\alpha$が存在しますから,

\begin{align}
(F(v)\mid\tilde{v})=(v\mid F(\tilde{v}))=(v\mid\alpha\tilde{v})=\alpha(v\mid\tilde{v})=0
\end{align}

となります。したがって,$F(v)\in W$となり$W$は$F$に関して不変であることが確認できました。対称変換$F$の$W$への縮小は$W$の対称変換となりますから,帰納法の仮定により$F$の固有ベクトルから成るような$W$の正規直交基底$\beta^{\prime}=\{v_{1},\ldots,v_{n-1}\}$が存在します。

$F$の$W$への縮小は$F$の表現行列のうち特定の行と列を除外することに相当します。今回の場合,$F$の$W$への縮小の表現行列は$n$行目と$n$列目を除外した行列になりますので,行列の対称性が保たれていることが分かります。

$\beta^{\prime}$に対して

\begin{align}
v_{v} &= \frac{\tilde{v}}{\|\tilde{v}\|}
\end{align}

で定義される$v_{n}$をつけ加えた$\beta$は,式($\ref{直和}$)より$V$の正規直交基底になります。このとき,$\beta$の元はすべて固有ベクトルになります。以上で,任意の$n$に対して上の主張が示されました。

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