【徹底解説】不変部分空間と表現行列

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

不変部分空間と表現行列

$V$を$\mK$上の$n$次元ベクトル空間,$F$を$V$の線型変換とし,$W$を$F$に関して不変な$r$次元部分空間とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表し,$r< n$とする。$W$の基底$\beta_{1}{=}\langle\vu_{1},\ldots,\vu_{r}\rangle$を拡大して$V$の基底$\beta{=}\langle\vu_{1},\ldots,\vu_{n}\rangle$を作る。このとき,基底$\beta$に関する$F$の表現行列$A$はつぎの形に区分けされる。

\begin{align}
A &=
\begin{bmatrix}
A_{11}&A_{12}\\
O&A_{22}
\end{bmatrix}
\end{align}

ただし,$O$は零行列,$A_{11}$は$F$の定義域を$W$に制限して得られる$W$の線型変換$F_{1}$,すなわち$F$の$W$への縮小の$W$の基底$\beta_{1}$に関する表現行列であり,$r$次元正方行列とする。

不変部分空間の直和と表現行列に利用される定理です。

証明

$W$の任意の元$\vw$を基底$\beta$で表すと,

\begin{align}
\vw &= w_{1}\vu_{1}+\cdots+w_{r}\vu_{r}+0\cdot\vu_{r+1}+\cdots+0\cdot\vu_{n}
\end{align}

となります。$w_{r+1}{=}\cdots{=}w_{n}=0$とすると,$\vw$は

\begin{align}
\vw &= \sum_{i=1}^{n}w_{i}\vu_{i}
\end{align}

と表されます。基底と同型写像の関係より,$W$の任意の元に対し

\begin{align}
\varphi\left(\sum_{i=1}^{n}w_{i}\vu_{i}\right) &= [w_{1},\ldots,w_{r},0,\ldots,0]^{T}\\[0.7em]
&\equiv [\vw_{1},\vzero]\label{w}
\end{align}

を満たす基底$\beta$に基づく同型写像$\varphi$を定義することができます。これはすなわち,$\varphi(W)$の元は式($\ref{w}$)のような形であることを表しています。いま,$F$の表現行列$A$を$\vw$の区分けに合わせて

\begin{align}
A &=
\begin{bmatrix}
A_{11}&A_{12}\\
A_{21}&A_{22}
\end{bmatrix}\label{A}
\end{align}

と区分けします。すなわち,$A_{11}$は$r$次元正方行列,$A_{22}$は$n{-}r$次元正方行列となります。$F$の表現行列$A$は$V$の基底$\beta$に関する表現行列であり,基底$\beta$の左から$r$列は$W$の基底であることから,$A_{11}$は$F_{1}$の表現行列になることに注意して下さい。

ちなみに,$A_{22}$は$V/W$の線型変換の$V/W$の基底に関する表現行列になります。

$W$は$F$に関して不変な$r$次元部分空間ですから,$\vw\in\varphi(W)$に対して

\begin{align}
A\vw \in \varphi(W)\label{Aw}
\end{align}

が成り立ちます。$\varphi(W)$の元は式($\ref{w}$)のような形であることと式($\ref{A}$)に注意すると,式($\ref{Aw}$)は

\begin{alignat}{2}
\begin{bmatrix}
A_{11}&A_{12}\\
A_{21}&A_{22}
\end{bmatrix}
[\vw_{1},\vzero]^{T}
&=[A_{11}\vw_{1},A_{21}\vw_{1}]^{T} &&\in \varphi(W)\label{結果}
\end{alignat}

となります。式($\ref{w}$)より,式($\ref{結果}$)が成り立つためには$A_{21}=O$でなくてはなりません。以上で本定理の証明が完了しました。

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