はじめに
私が読書を始めたキッカケや他に読んだ書籍については,以下のページにまとめています。
基本情報
| タイトル | ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク |
|---|---|
| 著者 | 原尻淳一/千葉智之 |
| 出版社 | プレジデント社 |
| 発売日 | 2024年04月26日 |
| ページ数 | 288ページ |
概要と感想
本書は主に,団塊ジュニア世代(1971年〜1974年生まれ)の働く人々を対象とし,キャリアの主軸を「ワークキャリア」から「ライフキャリア」へと切り替えることで,今後のあり方を再構築するための考え方を示すものである。
ワークキャリアとライフキャリアの違いについては『キャリア・スタディーズ』や『キャリア教育がわかる』でも述べられているが,バブル崩壊を機に「終身雇用・年功序列」から「個の力が軸となる世界」へと変容する中で,最もその荒波の影響を受けているのが団塊ジュニア世代といえる。この世代の方々は,「一つの企業で勤め上げる」ことが正解とされた時代を歩んできたのであり,当時は現代的な「キャリアデザイン」という概念そのものが希薄な時代であった。
現在,社会構造の変化によって働く意味やモチベーションを見失ってしまうケースも少なくないが,そうした状況において本書は「一筋の光」となる可能性を秘めている。もちろん,本書の知見は30代の若手・中堅社員や新卒の方々が読んでも今後の指針として十分に参考になる内容となっている。なお,本書内では「サラリーマン」という呼称が用いられているが,現代の多様な働き方に照らし合わせればより広義の「働く人々」として読み替えるのが適切だろう。
本書の構成は,各セクションの前半が架空の人物によるエピソード,後半がその内容の解説という二段構えになっている。前半は小説のような感覚でストーリーを楽しみながら読み進めることができ,後半でキャリアに関する知識やその背景を体系的にインプットできる仕組みだ。登場人物の多くが50代前後で設定されている点は,上述したターゲット層を強く意識した構成の表れと言えるだろう。
まず,ワークキャリアからライフキャリアへの変遷が解説されている。キャリアは大きく次の3種類に分けられる。
- 昭和型キャリア:終身雇用・年功序列・労使協調
- 平成型キャリア:働き方の多様化と個人のキャリア自律
- 令和型キャリア:前提条件の変更・人生100年時代
昭和型キャリアは,「終身雇用のもと入社した会社を定年まで勤め上げ,その中で社内競争を勝ち抜くこと」を目指すものであり,今日のような個人の主体的なキャリア形成という概念は存在しなかった。しかし,バブル崩壊を機に企業がリストラを余儀なくされ,インターネットの勃興により情報の流動性が飛躍的に高まったことで,自律的なキャリア形成の必要性が叫ばれるようになった。これに伴い,転職・起業・副業・兼業など働き方が多様化したのが「平成型キャリア」である。
さらに現在は,人生80年時代から100年時代へとキャリアの前提条件が劇的に変化している。個人のキャリア形成も,仕事に限定された「ワークキャリア」から,人生そのものを包括する「ライフキャリア」へと範囲を広げる必要が出てきた。この「令和型キャリア」の時代においては,目に見える成果だけでなく,次のような「無形資産」を蓄積していくべきだという。
- 生産性資産(仕事の生産性を高めて所得とキャリアの見通しを向上させる)
- 活力資産(肉体的・精神的健康と心理的幸福感)
- 変身資産(変化や移行を成功させる意思と能力,人的ネットワーク)
これらはリンダ・グラットン・アンドリュー・スコット著『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』で書かれている無形資産の分類だが,本書ではこの無形資産を蓄積させるフレームワーク「キャリア・ビルディング・ブロック」を提供するものとして捉えられる。
大事な視点…はキャリア形成が「幸福であること」です。私たちがデザインするキャリアが行き着くところは,「幸せな人生をデザインすること」です。
お金は必要です。しかし,お金の奴隷になりたくはありません。会社に囚われるのも,家庭に縛られるのも,幸せではありません。
…私たちは,これまで会社で培ってきた無形資産(生産性資産)と自分が本当に好きでやり続けてきた特技(変身資産)を融合させて,やりがいを持ちながら稼ぐこともできる「福」業と呼べるものを読者に提案していきます。
『ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク』p.54-55より引用
キャリアビルディングブロック(CBB)とは,縦軸を「資産の成長」,横軸を「資産分類」に分けて,生産性資産(ビジネス領域の無形資産)と変身資産(プライベート領域の無形資産)を融合させてパーソナル・ビジネス(有形資産)を形成するフレームワークのことを指す。

各ブロックの定義は以下の通りである。
- 労働:生産性資産を身につけるために会社が教育として投資する段階
- 仕事:生産性資産を活かして自ら仕事を生み出せる段階
- 学び・趣味:自分の好きなことや必要なことに対して投資する段階
- 特技:自分の好きなことで,何か価値あるのもを生み出せる段階
- パーソナル・ビジネス:仕事と特技を融合させて自分だけの事業を生み,所有する段階
本書では,創造レベルの無形資産をいかに増やすかがキャリア形成上は重要だと説いている。『キャリア・スタディーズ』でも解説されていた「プロティアン・キャリア」の考え方に則れば,創造レベルの資産数量を増やすことで,パーソナル・ビジネス(有形資産)を変幻自在に生み出すことができるからだ。また,やりがいのある仕事に変化させるためにはプライベート領域の特技を増やすことが特に大切だという。
この考え方のベースとなるのは,神戸大学の西村和雄特命教授と同志社大学の八木匡教授の「幸福感と自己決定ー日本における実証研究」という共同研究である。本研究において,幸福感を決定する要因は健康や人間関係に次いで,(所得や学歴よりも)自己決定が強い影響を与えていることが示されている。
すなわち,人生の選択をすることが,動機づけと満足度を高め,それが幸福感の向上につながると主張されている。これをCBB上でみると,投資レベルから創造レベルへと成長することが自己決定領域を広げることに相当するため,先ほどの「創造レベルの無形資産をいかに増やすかがキャリア形成上は重要」という本書の主張を裏付けているという形になる。
私たちがライフキャリア形成で創造的な資産を増やすことを重要視しているのは,この領域に到達すると自己決定の余地が増え,自分で判断できることで幸福度が増すからにほかなりません。
『ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク』p.114より引用
筆者はまた,人生においてワークキャリアとライフキャリアのグラデーションの付け方が大切だとも説いている。仮に定年で退職すると仮定すると,定年までワークキャリアのみを重視している人間が,定年後の人生を豊かに過ごせるかというと,そうではないという主張だ。50歳前後から徐々にライフキャリアの比重を上げていくとよいという研究もあるようだが,私個人的には20代はワークキャリア重視で走り切るとして,30代前半からライフキャリアの比重を上げていくのがよいと考えている。逆にずっと中途半端だとワークキャリアでもライフキャリアでも貴重な機会を損失してしまう恐れがある。(ただし,私は20代をワークキャリアや自己投資に捧げすぎてライフキャリアのバランスが崩壊していたため,少なくともライフキャリアにおけるゆとりは最低限確保するべきだと考えている。)
上でも言及したが,CBBにおける「得意なこと(仕事)」と「好きなこと(特技)」を組み合わせることは,持続可能なキャリアの形成において重要な意味を持つ。特技の前段階の「趣味」は大きく次のように分けられる。
- 消費型趣味
- 体験消費型趣味(スポーツ・アウトドア・食べ歩き等)
- コンテンツ消費型趣味(テレビ・映画・漫画・ゲーム等)
- 創造型趣味(料理・DIY・写真・バンド活動等)
多くの場合,消費型趣味は避けるべきで創造型趣味にするべきだと言われるが,著者は消費型趣味でも趣味から特技にどのように段階を進めるかを意識すれば,特技を伸ばすことができると説いている。趣味から特技に変化する段階としては,第一に趣味をやること自体で満足すること,第二に趣味を楽しむ中で何らかの気づきを得ること,第三に人に教えることができるようになることである。すなわち,本書では特技を「自分よりもできない人に教えることができるもの」と定義している。特技というとハードルが高いものに感じられるが,「自分よりもできない人に」教える程度であればほとんどの人が特技をもっていると言っても過言ではないだろう。
前野隆司教授によれば,ウェルビーイングは以下の四因子によって構成されているという。
- 自己実現と成長の因子(やってみよう!)
- つながりと感謝の因子(ありがとう!)
- 前向きと楽観の因子(なんとかなる!)
- 独立と自分らしさの因子(ありのままに!)
特に第一因子の「自己実現と成長」が,本書で強調している特技を伸ばしていくことと関連している。
求められるのは,誰かに決められた目標ではなく,「自分が本当にやりたかったこと」を,自分で決めて実現していくあり方である。そこでは,競争で勝つことや経済合理性,社会的意義よりも,内面の価値が重要である。
地球上のすべての人が,他人との比較ではなく,自分の心の底から湧き上がる心の声に従って,ワクワクしながらなんらかのエキスパートになれる世界ーー。そんな世界こそが理想である。
『ライフキャリア:人生を再設計する魔法のフレームワーク』p.187より引用(実態は『ディストピア禍の新・幸福論』より引用)
実際,「高齢者の幸福感に関連する要因の探索的検討」という研究によれば,「特技や経験を伝える活動への参加」をしている層に幸福度が高い傾向が見られたという。これは私が最近痛感していることでもあるが,ワークキャリアにおいて「できること(Can)」をただ伸ばしていくことが,必ずしも自己実現や幸福感に直結するとは限らない。
多くの場合,真の幸福感をもたらすのは「他者や社会に対して,手触り感を持って貢献すること」に集約されるのではないだろうか。自分本位の成長という世界に閉じこもってしまうことの危うさを理解するのは,早ければ早いほどよいだろう。


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