【徹底解説】極限と四則演算

本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

極限と四則演算

$\lim_{n\rarr\infty}a_{n}=a$,$\lim_{n\rarr\infty}b_{n}=b$が存在するとき,$a_{n}$と$b_{n}$の和・差・積・商の数列も収束して,つぎの等式が成り立つ。

\begin{align}
&\lim_{n\rarr\infty}(a_{n}\pm b_{n}) = a\pm b\label{1}\\[0.7em]
&\lim_{n\rarr\infty}(a_{n}b_{n}) = ab\label{2}\\[0.7em]
&\lim_{n\rarr\infty}\frac{a_{n}}{b_{n}} = \frac{a}{b}\label{3}
\end{align}

ただし,式($\ref{3}$)では$b\neq0$とする。

極限は四則演算を保存することを主張しています。すなわち,極限と四則演算は交換可能です。

証明

三つの等式をそれぞれ証明します。ポイントは,収束の定義における$\varepsilon$の任意性を利用し,最終的に「$<\varepsilon$」という綺麗な形にもっていくことです。パズル的な感覚があります。

(1)

絶対値の性質より,

\begin{align}
|(a\pm b)-(a_{n}\pm b_{n})|&= |(a-a_{n})+(\pm b \mp b_{n})|\\[0.7em]
&\leq |a-a_{n}|+|\pm b \mp b_{n}| = |a-a_{n}|+|b-b_{n}|
\end{align}

が成り立ちます。$(a_{n})$と$(b_{n})$がそれぞれ$a,b$に収束することから,収束の定義より,任意の$\varepsilon$に対し十分大きな$n_{0}$が存在し,$n\geq n_{0}$となるとき

\begin{align}
|a-a_{n}|<\frac{\varepsilon}{2},\quad |b-b_{n}|<\frac{\varepsilon}{2}
\end{align}

が成り立ちます。右辺が$\varepsilon/2$となっているのは,後で綺麗な式を導くためです。これらより,$n\geq n_{0}$のとき

\begin{align}
|(a\pm b)-(a_{n}\pm b_{n})| &\leq |a-a_{n}|+|b-b_{n}| <\varepsilon
\end{align}

が成り立ちます。したがって,収束の定義より,式($\ref{1}$)が示されました。

(2)

収束する数列は有界になることから,$(a_{n})$と$(b_{n})$は有界です。有界の定義より,すべての$n\in\mN$に対して

\begin{align}
|a_{n}|\leq M,\quad |b_{n}| \leq M
\end{align}

となる$M>0$が存在します。このとき,絶対値の性質より,

\begin{align}
|ab-a_{n}b_{n}| &= |(ab-ab_{n})+(ab_{n}-a_{n}b_{n})|\\[0.7em]
&\leq |ab-ab_{n}|+|ab_{n}-a_{n}b_{n}| = |a||b-b_{n}|+|b_{n}||a-a_{n}|\\[0.7em]
&\leq |a||b-b_{n}|+M|a-a_{n}|
\end{align}

が成り立ちます。一方,$(a_{n})$と$(b_{n})$がそれぞれ$a,b$に収束することから,収束の定義より,任意の$\varepsilon$に対し十分大きな$n_{0}$が存在し,$n\geq n_{0}$となるとき

\begin{align}
|a-a_{n}|<\frac{\varepsilon}{2M},\quad |b-b_{n}|<\frac{\varepsilon}{2(|a|+1)}
\end{align}

が成り立ちます。右辺が恣意的な形となっているのは,後で綺麗な式を導くためです。これらより,$n\geq n_{0}$のとき

\begin{align}
|ab-a_{n}b_{n}|
&\leq |a||b-b_{n}|+M|a-a_{n}|\\[0.7em]
&< |a|\frac{\varepsilon}{2(|a|+1)}+M\frac{\varepsilon}{2M}
= \varepsilon\frac{|a|+(|a|+1)}{2(|a|+1)}\\[0.7em]
&< \varepsilon\frac{2(|a|+1)}{2(|a|+1)} = \varepsilon
\end{align}

が成り立ちます。したがって,収束の定義より,式($\ref{2}$)が示されました。

(3)

式($\ref{2}$)に注意すると,

\begin{align}
\lim_{n\rarr\infty}\frac{1}{b_{n}} &= \frac{1}{b}\label{主題3}
\end{align}

を示すことができれば,

\begin{align}
\lim_{n\rarr\infty}\frac{a_{n}}{b_{n}} &= \lim_{n\rarr\infty}\left(a_{n}\frac{1}{b_{n}}\right) = a\frac{1}{b}
\end{align}

となり,式($\ref{3}$)を示すことができます。そこで,以下では式($\ref{主題3}$)を示します。$(b_{n})$が収束することから,収束の定義より,$n\geq n_{1}$に対して

\begin{align}
|b-b_{n}| < \frac{|b|}{2}\label{3-1}
\end{align}

となる$n_{1}$が存在します。右辺が恣意的な形となっているのは,後で綺麗な式を導くためです。また,$b\neq 0$に注意すると,絶対値の性質より

\begin{align}
|b|-|b_{n}|<|b-b_{n}|\label{3-2}
\end{align}

が成り立ちます。式($\ref{3-1}$)と式($\ref{3-2}$)より,

\begin{align}
|b_{n}|>\frac{|b|}{2} > 0
\end{align}

が得られます。$b_{n}\neq 0$より$1/b_{n}$を考えてもよく,絶対値の性質に注意すると,$n\geq n_{1}$のとき

\begin{align}
\left|\frac{1}{b}-\frac{1}{b_{n}}\right| &= \frac{|b-b_{n}|}{|bb_{n}|}<\frac{2|b-b_{n}|}{|b^{2}|}\label{3-3}
\end{align}

となります。一方,$(b_{n})$が$b$に収束することから,収束の定義より,任意の$\varepsilon$に対し十分大きな$n_{2}$が存在し,$n\geq n_{2}$となるとき

\begin{align}
|b-b_{n}| < \frac{|b|^{2}}{2}\varepsilon\label{3-4}
\end{align}

が成り立ちます。右辺が恣意的な形となっているのは,後で綺麗な式を導くためです。いま,$n_{0}{=}\max(n_{1},n_{2})$とおけば,式($\ref{3-3}$)と式($\ref{3-4}$)より,$n\geq n_{0}$のとき

\begin{align}
\left|\frac{1}{b}-\frac{1}{b_{n}}\right| < \varepsilon
\end{align}

が成り立ちます。したがって,収束の定義より,式($\ref{3}$)が示されました。

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