本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
線形写像と行列の関係
$\mK$は実数空間$\mR$または複素数空間$\mC$を表す。$m\times n$行列$A$は線型写像$L_{A}:~\mK^{n}\rightarrow \mK^{m}$を定める。すなわち,$\vx\in\mK^{n}$に対して
L_{A}(\vx) &= A\vx
\end{align}
で定義される$L_{A}$は線型写像である。このとき,$\mK^{n}$の標準基底を$\{\ve_{1},\ldots,\ve_{n}\}$,$A$の列ベクトル表示を$(\va_{1},\ldots,\va_{n})$とすれば,$j=1,\ldots,n$に対して
L_{A}(\ve_{j}) &= \va_{j}
\end{align}
が成り立つ。逆に,任意の線形写像$L:~\mK^{n}\rightarrow \mK^{m}$はただ一つの$m\times n$行列$A$によって$L=L_{A}$と表される。
線形写像はある基底に関して行列と一対一対応するという意味です。
証明
任意の$m\times n$行列$A$が線形写像を定めることは,行列積の定義より示すことができます。すなわち,$\vx\in\mK^{n}$,$\vy\in\mK^{n}$と任意の実数$c$に対して,行列積の定義より
A(\vx+\vy) &= A\vx + A\vy \\[0.7em]
A(c\vx) &= cA\vx
\end{align}
が成り立ちます。すなわち,線形写像の定義より,行列$A$は$\mK^{n}$から$\mK^{m}$への線形写像を定めていることを意味しています。すると,行列$A$で定まるこの線形写像を$L_{A}$と置くと,任意の$\vx\in\mK^{n}$に対して
L_{A}(\vx) &= A\vx \label{LA}
\end{align}
と表すことができます。このとき,行列積の定義より,$j=1,\ldots,n$に対して
L_{A}(\ve_{j}) &= A\ve_{j} \\[0.7em]
&= e_{j1}\va_{1}+e_{j2}\va_{2}+\cdots+e_{jn}\va_{n} \\[0.7em]
&= \va_{j}
\end{align}
が成り立ちます。以下では,逆に,任意の線形写像$L:~\mK^{n}\rightarrow \mK^{m}$はただ一つの$m\times n$行列$A$によって$L=L_{A}$と表されることを示します。$L$による標準基底の像をそれぞれ
L(\ve_{1})=\va_{1},\quad L(\ve_{2})=\va_{2},\quad\ldots,\quad L(\ve_{n})=\va_{n}
\end{align}
とします。このとき,線形写像の性質より,任意の$\mK$の元$x_{1},\ldots,x_{n}$に対して
L(x_{1}\ve_{1}+\cdots+x_{n}\ve_{n}) &= x_{1}L(\ve_{1})+\cdots+x_{n}L(\ve_{n}) \\[0.7em]
&= x_{1}\va_{1}+\cdots+x_{n}\va_{n} \label{置換前}
\end{align}
となります。ここで,$\vx=[x_{1},\ldots,x_{n}]$,$A=[\va_{1},\ldots,\va_{n}]$と置くと,式($\ref{置換前}$)は
L(\vx) &= A\vx
\end{align}
と表されます。これと式($\ref{LA}$)より$L=L_{A}$が示されました。
コメント