【数検1級対策】部分分数分解の完全解法(ヘビサイドの展開定理)

本記事では,数学検定1級で頻出のトピックについてまとめていきます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

結論

部分分数分解は,以下の手順に則って行います。

STEP
分母の字数の方が分子の次数より大きくなるように割り算する

多くの問題では既に$(分母の字数)>(分子の次数)$となっています。ここでは

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{x^{4}-2x^{3}+2x^{2}-2x+1}
\end{align}

を考えますが,既に$(分母の字数)>(分子の次数)$となっており割り算は不要です。

STEP
分母を因数分解する

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{x^{4}-2x^{3}+2x^{2}-2x+1}
&= \frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
\end{align}

STEP
全ての因数の和で恒等式を作る

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
&= \frac{A}{x-1}+\frac{B}{(x-1)^{2}}+\frac{C}{x+i}+\frac{D}{x-i}
\end{align}

分子のおき方

部分分数分解で恒等式を作る際,分子のおき方には次の2種類があります。

  1. $(x-\alpha)^{n}$型:定数でおく
  2. $(a_{n}x^{n}+\cdots+a_{1}x+a_{0})$型:$A_{n-1}x^{n-1}+\cdots+A_{1}x+A_{0}$でおく

ヘビサイドの展開定理を利用するためには,複素数を利用して全てパターン1に寄せる必要があります。部分分数分解を実数の範囲で行いたい場合は,一旦パターン1に寄せてヘビサイドの展開定理を利用し,共役な因数同士を通分することで実数に戻すことができます。具体的には,

\begin{align}
\frac{px+q}{x^{2}+1} &= \frac{A}{x+i}+\frac{B}{x-i}
\end{align}

と分解できますが,これを通分すれば複素数解の共役性より

\begin{align}
\frac{A}{x+i}+\frac{B}{x-i} &= \frac{(A+B)x}{x^{2}+1}
\end{align}

のように実数となることが確認できます。なお,実数領域の分子のおき方について,分母の最大次数が$2$の場合を考えると次のようになります。

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle\frac{px+q}{(ax+b)(cx+d)}
= \frac{A}{ax+b}+\frac{B}{cx+d}\\[0.7em]
\displaystyle\frac{px+q}{(ax+b)^{2}}
= \frac{A}{ax+b}+\frac{B}{(ax+b)^{2}}\\[0.7em]
\displaystyle\frac{px^{2}+qx+r}{(ax+b)(cx^{2}+dx+e)}
= \frac{A}{ax+b}+\frac{Bx+C}{cx^{2}+dx+e}\\[0.7em]
\displaystyle\frac{px^{3}+qx^{2}+rx+s}{(ax+b)^{2}(cx^{2}+dx+e)}
{=} \frac{A}{ax+b}{+}\frac{B}{(ax+b)^{2}}{+}\frac{Cx+D}{cx^{2}+dx+e}
\end{cases}
\end{align}

しかし,パターン2を残したままにすると係数比較法を利用することになり,ヘビサイドの展開定理の旨みを享受することができません。分母を複素数の範囲で因数分解して全ての因数をパターン1にすると,ヘビサイドの展開定理より機械的に係数を求めることが可能になります。

STEP
係数を求める

係数比較法かヘビサイドのカバーアップ法を利用します。

以下では「因数」という言葉を正確には用いません。本稿では,部分分数分解において分解された各項のことを因数とよぶことにします。

ヘビサイドの展開定理

上の手順に従って部分分数分解を行う際,STEP3で因数の和を用いて恒等式を作れること,およびその恒等式における係数の求め方についての定理を紹介します。係数は一般に係数比較法が用いられますが,今回紹介するヘビサイドの展開定理を利用すれば係数をより楽に求めることができるようになります。

部分分数分解の存在

$P(x),Q(x)$は$x$の実係数多項式で,$(Qの次数){>}(Pの次数)$とする。$Q(x)$は複素数の範囲で

\begin{align}
Q(x) &= (x-x_{1})^{n_{1}}(x-x_{2})^{n_{2}}\cdots(x-x_{n})^{n_{n}}
\end{align}

と因数分解できるとき,任意の有理関数は

\begin{align}
\frac{P(x)}{Q(x)}
&= \sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{n_{i}}\frac{a_{ij}}{(x-x_{i})^{j}}\label{有理関数_部分分数分解}
\end{align}

と部分分数分解できる。ただし,$a_{ij}$の求め方は後述する。

$Q(x)$が複素数の範囲で因数分解できることは代数学の基本定理に基づきます。厳密には$x$の最高次数の係数が因数分解の外側に出てきますが,$x$の最高次数の係数は$1$としても一般性は失いません。

有理関数が式($\ref{有理関数_部分分数分解}$)のように部分分数分解できることの証明は,テイラー展開を複素関数に拡張したローラン展開を利用する必要があります。数検1級の範囲を超えてしまいますが,以下で簡単に説明しておきましょう。

有理関数が式($\ref{有理関数_部分分数分解}$)のように部分分数分解できることの説明

有理関数の空間は,極の位置と位数(重複度)によって張られる線形空間だからです。このことを説明するため,極の位置と重複度が異なればそれらは線形独立であること,すなわち

\begin{align}
\frac{1}{(x-x_{i})^{j}}\label{因数}
\end{align}

が線形独立であることを確認します。仮にこれが線形独立でないとすると,次の恒等式

\begin{align}
\sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{n_{i}}a_{ij}\frac{1}{(x-x_{i})^{j}}
&= 0
\end{align}

において$a_{ij}\neq 0$が存在します。左辺を$x_{i}$のまわりのローラン展開と捉えると,$(x-x_{i})^{j}$の係数$a_{ij}$は左辺のローラン展開において唯一現れる項のため,恒等式を満たすためには$a_{ij}{=}0$でなければなりません。これは任意の$i,j$に対して成り立つため,すべての係数が$0$となり$a_{ij}\neq 0$が存在することに矛盾します。したがって,式($\ref{因数}$)が線形独立であることが示されました。

$P(x)/Q(x)$の最大次数は$Q(x)$の次数と等しくなるため,

\begin{align}
\frac{P(x)}{Q(x)}
&= \sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{n_{i}}a_{ij}\frac{1}{(x-x_{i})^{j}}
\end{align}

のように有理関数の空間を線形結合で表すことができます。

係数の求め方(カバーアップ法)

式($\ref{有理関数_部分分数分解}$)における係数$a_{ij}$は,次のように求められる。

\begin{align}
a_{pq}
&= \frac{1}{(n_{p}-q)!}\left.\frac{d^{n_{p}-q}}{dx^{n_{p}-q}}\left\{(x-x_{p})^{n_{p}}\frac{P(x)}{Q(x)}\right\}\right|_{x=x_{p}}\label{係数_求め方}
\end{align}

求めたい因数を隠して微分や代入を行うことから,ヘビサイドの展開定理における係数の求め方はcover-upメソッドとよばれることがあります。なお,式($\ref{係数_求め方}$)のノーテーションが$i,j$ではなく$p,q$になっているのは,後述の証明で$i,j$とバッティングを避けて利用する$p,q$の形で結論が得られるためです。

式の意味確認

式($\ref{係数_求め方}$)は複雑であるため,まずは読み方を確認します。まず,

\begin{align}
\left.(x-x_{i})^{n_{i}}\frac{P(x)}{Q(x)}\right|_{x=x_{i}}
\end{align}

の部分は「求めたい因数を元の有理数の分母から消してから$x=x_{i}$を代入する」ことを意味しています。例えば,

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
\end{align}

において$\displaystyle \frac{A}{(x-1)^{2}}$の係数$A$を求めたければ,

\begin{align}
\left.(x-1)^{2}\frac{P(x)}{Q(x)}\right|_{x=1}&\\[0.7em]
= \left.\frac{x^{2}+3}{x^{2}+1}\right|_{x=1}& = 2
\end{align}

となります。コツとしては,着目するのが$x-1$でも$(x-1)^{2}$でも共通して$(x-1)^{2}$を掛けて分母から$x-1$の因数を消す点です。ただし,前についている

\begin{align}
\frac{d^{n_{i}-j}}{dx^{n_{i}-j}}
\end{align}

に注意が必要です。これは「因数の次数が小さければ微分してから$x=x_{i}$を代入する」ことを意味しています。例えば$\displaystyle \frac{B}{x-1}$の係数$B$を求めたければ,

\begin{align}
\left.\frac{d^{2-1}}{dx^{2-1}}\left\{(x-1)^{2}\frac{P(x)}{Q(x)}\right\}\right|_{x=1}&\\[0.7em]
= \left.\frac{d}{dx}\left(\frac{x^{2}+3}{x^{2}+1}\right)\right|_{x=1}&\\[0.7em]
=\left.\frac{d}{dx}\left(1+\frac{2}{x^{2}+1}\right)\right|_{x=1}&\\[0.7em]
=\left.\frac{d}{dx}\left(1+\frac{-4x}{(x^{2}+1)^{2}}\right)\right|_{x=1}& = -1
\end{align}

となります。

証明

式($\ref{有理関数_部分分数分解}$)において$i=p$の場合だけ別の項に切り出すため,両辺に$(x-x_{p})^{n_{p}}$を掛けると,

\begin{align}
(x-x_{p})^{n_{p}}\frac{P(x)}{Q(x)}
&= (x-x_{p})^{n_{p}}\sum_{i\neq p}\sum_{j=1}^{n_{i}}\frac{a_{ij}}{(x-x_{i})^{j}}
+\sum_{j=1}^{n_{p}}a_{pj}(x-x_{p})^{n_{p}-j}
\end{align}

となります。右辺の$a_{pq}$のみを抽出するため,両辺を$n_{p}-q~$階微分して$x=x_{p}$を代入すれば

\begin{align}
\left.\frac{d^{n_{p}-q}}{dx^{n_{p}-q}}\left\{(x-x_{p})^{n_{p}}\frac{P(x)}{Q(x)}\right\}\right|_{x=x_{p}}
&= (n_{p}-q)!\cdot a_{pq}
\end{align}

となります。ゆえに,

\begin{align}
a_{pq}
&= \frac{1}{(n_{p}-q)!}\left.\frac{d^{n_{p}-q}}{dx^{n_{p}-q}}\left\{(x-x_{p})^{n_{p}}\frac{P(x)}{Q(x)}\right\}\right|_{x=x_{p}}
\end{align}

が得られます。

分子の次数について

次数のルール

分母の多項式は複素数の範囲で必ず因数分解できますので,「部分分数分解の存在」より任意の有理関数は部分分数分解できるということになります。ただ,複素数を持ち込みたくない場合は分母に$2$次以上の次数が残るため,分子には最大次数として分母の次数から$1$引いた次数を採用します。例えば,分母で因数分解しない多項式の次数が$2$の場合,

\begin{align}
\frac{px^{2}+qx+r}{(ax+b)(cx^{2}+dx+e)}
&= \frac{A}{ax+b}+\frac{Bx+C}{cx^{2}+dx+e}
\end{align}

のようになります。同様に,分母で因数分解しない多項式の次数が$3$の場合,

\begin{align}
\frac{px^{3}+qx^{2}+rx+s}{(ax+b)(cx^{3}+dx^{2}+ex+f)}
&= \frac{A}{ax+b}+\frac{Bx^{2}+Cx+D}{cx^{3}+dx^{2}+ex+f}
\end{align}

のようになります。ヘビサイドの展開定理と併せると,分子の定数は

  1. $(x-\alpha)^{n}$型:定数でおく
  2. $(a_{n}x^{n}+\cdots+a_{1}x+a_{0})$型:$A_{n-1}x^{n-1}+\cdots+A_{1}x+A_{0}$でおく

の2つのパターンにまとめられます。しかし,パターン2を残したままにすると係数比較法を利用することになり,ヘビサイドの展開定理の旨みを享受することができません。分母を複素数の範囲で因数分解して全ての因数をパターン1にすると,ヘビサイドの展開定理より機械的に係数を求めることが可能になります。

よくある間違い

パターン2を残し続けて係数比較法を用いる場合,分子の次数を間違えるケースが多いです。

\begin{align}
\frac{px^{2}+qx+r}{(ax+b)(cx^{2}+dx+e)}
= \frac{A}{ax+b}+\frac{B}{cx^{2}+dx+e}
\end{align}

のように分母が$cx^{2}+dx+e$の項の分子の次数が不足しているパターンや,

\begin{align}
\frac{px^{2}+qx+r}{(ax+b)^{2}(cx^{2}+dx+e)}
= \frac{A}{ax+b}+\frac{Cx+D}{(ax+b)^{2}}+\frac{Ex+F}{cx^{2}+dx+e}
\end{align}

のように分母が$(ax+b)^{2}$の項の分母の次数が過剰なパターンがあります。後者の場合は過剰な係数が$0$であると求められるので問題ありませんが,前者の場合は必要な次数が出現せずに問題が起きてしまうため注意が必要です。

例題

次の有理関数を部分分数分解せよ。ただし,答えは実数範囲で表現すること。

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{x^{4}-2x^{3}+2x^{2}-2x+1}
\end{align}

STEP1では分母の次数の方が分子の字数よりも大きくなっていることを確認し,今回の例題はその条件が満たされているため問題ありません。次に,分母の多項式を因数分解します。

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{x^{4}-2x^{3}+2x^{2}-2x+1}
&= \frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
\end{align}

次に,分子の置き方に注意して有理関数を因数の和で表します。

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
&= \frac{A}{x-1}+\frac{B}{(x-1)^{2}}+\frac{C}{x+i}+\frac{D}{x-i}
\end{align}

ヘビサイドのカバーアップ法を利用して各係数を求めます。まずは$A$を求めます。

\begin{align}
A
&= \frac{1}{(2-1)!}\cdot\left.\frac{d}{dx}\left(\frac{x^{2}+3}{x^{2}+1}\right)\right|_{x=1}\\[0.7em]
&= \frac{1}{(2-1)!}\cdot\left.\frac{d}{dx}\left(1+\frac{2}{x^{2}+1}\right)\right|_{x=1}\\[0.7em]
&= \left.\frac{-4x}{(x^{2}+1)^{2}}\right|_{x=1}
= -1
\end{align}

次に$B,C,D$を求めます。

\begin{align}
\begin{cases}
\displaystyle
B
= \left.\frac{x^{2}+3}{x^{2}+1}\right|_{x=1}
= 2\\[0.7em]
\displaystyle
C
= \left.\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x+i)}\right|_{x=i}
= \frac{2}{(-2i)\cdot 2i} = \frac{1}{2}\\[0.7em]
\displaystyle
D
= \left.\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x-i)}\right|_{x=-i}
= \frac{2}{2i\cdot (-2i)} = \frac{1}{2}
\end{cases}
\end{align}

以上より,答えを実数範囲で表現すると,

\begin{align}
\frac{x^{2}+3}{(x-1)^{2}(x^{2}+1)}
&= -\frac{1}{x-1}+\frac{2}{(x-1)^{2}}+\frac{1}{2(x+i)}+\frac{1}{2(x-i)}\\[0.7em]
&= -\frac{1}{x-1}+\frac{2}{(x-1)^{2}}+\frac{(x+i)+(x-i)}{2(x^{2}+1)}\\[0.7em]
&= -\frac{1}{x-1}+\frac{2}{(x-1)^{2}}+\frac{x}{x^{2}+1}
\end{align}

となります。

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