本記事では,数学検定1級で頻出のトピックについてまとめていきます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
グラム行列の固有値
グラム行列の固有値を求めるときは,$AA^{\ast}$と$A^{\ast}A$で次元数が異なる場合は固有値の個数も異なるため注意する。
グラム行列は半正定値であるため,固有値は非負となります。
具体例
次の行列$A$に対し,$AA^{\ast}$と$A^{\ast}A$の固有値を求めよ。
A &=
\begin{pmatrix}
-i & -1 & -1 + 2i\\
2-i & -2i & 1
\end{pmatrix}
\end{align}
解答
AA^{\ast} &=
\begin{pmatrix}
-i & -1 & -1 + 2i\\
2-i & -2i & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
i & 2+i\\
-1 & 2i\\
-1-2i & 1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
7 & -2i\\
2i & 10
\end{pmatrix}
\end{align}
となるため,$AA^{\ast}$の固有多項式を計算すると
\begin{vmatrix}
7-\lambda & -2i\\
2i & 10-\lambda
\end{vmatrix}
&= (\lambda-6)(\lambda - 11)
\end{align}
となります。これより,$AA^{\ast}$の固有値は$6,11$となります。ここで,$6,11$に対する固有ベクトルをそれぞれ$\vx_{1},\vx_{2}$とおくと,固有ベクトルの定義より
\begin{cases}
(AA^{\ast})\vx_{1} = 6\vx_{1}\\[0.7em]
(AA^{\ast})\vx_{2} = 11\vx_{2}
\end{cases}
が成り立ちます。両辺に左から$A^{\ast}$を掛けると
\begin{cases}
(A^{\ast}A)(A^{\ast}\vx_{1}) = 6(A^{\ast}\vx_{1})\\[0.7em]
(A^{\ast}A)(A^{\ast}\vx_{2}) = 11(A^{\ast}\vx_{2})
\end{cases}
となるため,$6,11$は$A^{\ast}A$の固有値,$A^{\ast}\vx_{1},A^{\ast}\vx_{2}$は固有ベクトルとなります。ここで$\mathrm{rank}(A^{\ast}A){=}3$および$\mathrm{rank}(A){=}2$であることに注意すると,次元定理より$A\vy=\vzero$を満たすベクトル$\vy$が存在します。$A\vy=\vzero$の左から$A^{\ast}$を掛けると,
(A^{\ast}A)\vy &= A^{\ast}\vzero = 0\vy
\end{align}
と表すことができるため,$0$は$A^{\ast}A$の固有値となります。
$\mathrm{rank}A^{\ast}A=3$を計算するくらいなら,そのまま$A^{\ast}A$の固有方程式を解いてもよいでしょう。
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