【数検1級対策】円分多項式とその性質

本記事では,数学検定1級で頻出のトピックについてまとめていきます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

円分多項式

次の式で定義される多項式を円分多項式という。

\begin{align}
\Phi_{n}(x) &= \prod_{\substack{1\leq k\leq n\\[4pt] \gcd(k,n)=1}}\left(x-e^{2\pi ik/n}\right)\label{定義}
\end{align}

円分多項式は円周等分多項式とも言われます。$e^{2\pi ik/n}$が複素平面上の単位円を$n$等分することがその由来です。この定義は一見難解なように見えますので,以下で丁寧に見ていきます。

性質

円分多項式は$1$の冪根に関連しているため,以下で説明するような性質を有します。

定義の解釈

$k=1,\cdots,n$に対し,$e^{2\pi ik/n}$は$x^{n}=1$の根のうち異なる$n$個の根すべてを表します。一方,これらの根の中には$n$乗に到達する前に$1$となってしまう根も存在し,これらの根は$k|n$となる$k$に対応する根となります。円分多項式はこれらの$k$を除いた根,すなわち$n$と互いに素である$k$で構成されています。定義における$\gcd(k,n)=1$がそれに相当します。

定義($\ref{定義}$)を見ても分かる通り,円分多項式は$n$乗して初めて$1$となる複素数全てを根に持つ多項式の中でも最高次数の項の係数が$1$となるものを指し,さらにその中でも次数が最小であるものを指します。以上をまとめると,次を満たす最小次数の多項式を円分多項式といいます。

  • $n$乗して初めて$1$となる複素数全てを根に持つ
  • 最高次数の項の係数が$1$である

$n$乗して初めて$1$となる複素数は原始$n$乗根,最高次数の項の係数が$1$である多項式はモニックとよばれるため「原始$n$乗根すべてを根に持つ最小次数のモニックな多項式」を円分多項式といいます。

$\Phi_{n}(x)$の次数

上の解釈からも分かる通り,$\Phi_{n}(x)$は$k=1,\cdots,n$のうち$n$と互いに素である$k$に関して積を取りますので,$\Phi_{n}(x)$の次数はオイラー関数を用いて$\varphi(n)$となります。

$x^{n}-1$の因数分解

$x^{n}-1$の因数分解を円分多項式$\Phi_{n}(x)$で表すことを考えます。因数分解が原始$n$乗根だけで構成されるのであれば$x^{n}-1=\Phi_{n}(x)$と表されますが,$x^{n}=1$の解としては「$n$乗してはじめて$1$にならなくてもよいが,$n$乗すると$1$となる根」という原始$n$乗根以外の根も含まれます。これらの根は$k$乗して初めて$1$となるとすると,$k$は$n$の約数でなければなりません。したがって,$x^{n}-1$は

\begin{align}
x^{n}-1 &= \prod_{d|n}\Phi_{d}(x)\label{因数分解}
\end{align}

のように因数分解できます。

円分多項式の求め方

式($\ref{因数分解}$)を変形すると

\begin{align}
x^{n}-1 &= \left(\prod_{\substack{d|n\\d\neq n}}\Phi_{d}(x)\right)\cdot\Phi_{n}(x)\label{定義の変形}
\end{align}

となるため,円分多項式$\Phi_{n}(x)$は

\begin{align}
\Phi_{n}(x) &= \frac{x^{n}-1}{\prod_{\substack{d|n\\d\neq n}}\Phi_{d}(x)}\label{再帰}
\end{align}

を用いて再帰的に求めていくことが可能です。

例1

$\Phi_{3}(x)$を求めなさい。

定義($\ref{定義}$)より$\Phi_{1}(x)=x-1$となります。式($\ref{再帰}$)より,

\begin{align}
\Phi_{2}(x) = \frac{x^{2}-1}{\Phi_{1}(x)} = \frac{(x-1)(x+1)}{x-1} = x+1
\end{align}

が得られます。同様に,式($\ref{再帰}$)より

\begin{align}
\Phi_{3}(x) = \frac{x^{3}-1}{\Phi_{1}(x)} = \frac{(x-1)(x^{2}+x+1)}{x-1} = x^{2}+x+1
\end{align}

が得られます。

例2

$\Phi_{4}(x)$を求めなさい。

例1と同様に,式($\ref{再帰}$)より

\begin{align}
\Phi_{4}(x) = \frac{x^{4}-1}{\Phi_{1}(x)\Phi_{2}(x)} = \frac{(x-1)(x+1)(x^{2}+1)}{(x-1)(x+1)} = x^{2}+1
\end{align}

が得られます。

素数に対する円分多項式

$n$が素数$p$のとき,$k|p$かつ$k\neq p$となる数は$1$のみであるから,式($\ref{再帰}$)より

\begin{align}
\Phi_{p}(x)
&= \frac{x^{p}-1}{\Phi_{1}} = \frac{(x-1)(x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x+1)}{x-1}\\[0.7em]
&= x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x+1
\end{align}

となります。

係数は整数となる

円分多項式の係数は整数となる。

数学的帰納法を用います。$n=1$のとき,$\Phi_{1}(x)=x-1$となるため題意を満たします。$n=k-1$のとき,$\Phi_{1}(x),\cdots,\Phi_{k-1}(x)$の係数が整数であると仮定すると,式($\ref{定義の変形}$)で導出した

\begin{align}
x^{k}-1 &= \left(\prod_{\substack{d|k\\ d\neq k}}\Phi_{d}(x)\right)\cdot\Phi_{k}(x)
\end{align}

において,左辺は整数係数であり,右辺の積の第一項目も仮定より整数係数となるため,右辺の積の第二項目$\Phi_{k}(x)$も整数係数となります。以上より,一般の$n$に対して$\Phi_{n}(x)$が整数係数であることが示されました。

規約性

円分多項式は規約である。

規約とは「それ以上因数分解できないこと」を意味します。円分多項式は整数係数となるため,整数係数の範囲で規約であるともいえます。

厳密に証明しようとすると少々複雑になってしまうため,ここでは直感的な理解を目指しましょう。「原始$n$乗根すべてを根に持つ最小次数のモニックな多項式」が円分多項式でした。この定義を直感的に捉えると「原始$n$乗根だけをピンポイントで押さえた最小限の多項式」となります。つまり,円分多項式は複素平面における単位円上の根を表すための「冗長性を抑えたレシピ」と捉えることができます。

式($\ref{再帰}$)より円分多項式は再帰的に求めることができるのでした。冗長性を抑えたレシピを組み合わせるたレシピもまた冗長性が抑えられているため,円分多項式は常に冗長性が抑えられていることになります。「冗長性が抑えられている」ことを「規約である」と捉えると,円分多項式が規約であると直感的に理解できるのではないでしょうか。

問題演習

例題1

$\displaystyle z=\cos\frac{2\pi}{9}+i\sin\frac{2\pi}{9}$のとき,

\begin{align}
P &= z^{7}-5z^{6}+z^{4}-5z^{3}+z+7
\end{align}

の値を求めよ。

$z$は$1$の$9$乗根であるから

\begin{align}
z^{9}-1=(z-1)(z^{8}+z^{7}+z^{6}+z^{5}+z^{4}+z^{3}+z^{2}+z+1)
\end{align}

となり,$z\neq 1$より$z^{8}+z^{7}+z^{6}+z^{5}+z^{4}+z^{3}+z^{2}+z+1=0$が得られますが,$z$の次数がまだ大きすぎて与式を求められそうにありません。そこで,原始$9$乗根のみを考える円分多項式を利用します。式($\ref{再帰}$)より,

\begin{align}
\Phi_{9}(x) = \frac{x^{9}-1}{\Phi_{1}(x)\Phi_{3}(x)} = \frac{(x^{3}-1)(x^{6}+x^{3}+1)}{(x-1)\left\{(x^{3}-1)/(x-1)\right\}} = x^{6}+x^{3}+1\label{ポイント}
\end{align}

が得られます。

式($\ref{ポイント}$)で$\Phi_{3}(x)$を$x^{2}+x+1$ではなく$(x^{3}-1)/(x-1)$という式($\ref{再帰}$)のままの形で代入する点が計算を簡単になります。

$z$は$1$の原始$9$乗根であるため$\Phi_{9}(z)=0$を満たすことに注意すると,

\begin{align}
P
&= z(z^{6}+z^{3}+1)-5(z^{6}+z^{3}+1)+12
= z\Phi_{9}(z)-5\Phi_{9}(z)+12 = 12
\end{align}

と求められます。

この問題のポイントは,通常の$9$乗根を考えると次数下げが効かず,原始$9$乗根を考えることにより次数を十分に下げることができるという点です。

例題2

$\displaystyle\cos\frac{2}{7}\pi+\cos\frac{4}{7}\pi+\cos\frac{6}{7}\pi$の値を求めなさい。

$z=e^{2\pi i/7}$とおくと$z^{7}-1=(z-1)(z^{6}+z^{5}+z^{4}+z^{3}+z^{2}+z+1)=0$が得られ,$z\neq 1$より

\begin{align}
z^{6}+z^{5}+z^{4}+z^{3}+z^{2}+z+1
\end{align}

が成り立ちます。また,単位円の演習を$z=1$から反時計回りに$7$分割した点を思い浮かべると,

\begin{align}
z^{6} = \overline{z},\quad
z^{5} = \overline{z^{2}},\quad
z^{4} = \overline{z^{3}}
\end{align}

が成り立ち,複素指数関数から$\cos$を抽出するためには共役複素数との和を考えればよいことに注意すると,

\begin{align}
z^{6}+z^{5}+z^{4}+z^{3}+z^{2}+z+1
&= (z+\overline{z})+(z^{2}+\overline{z^{2}})+(z^{3}+\overline{z^{3}})+1\\[0.7em]
&= 2\cos\frac{2\pi}{7}+2\cos\frac{4\pi}{7}+2\cos\frac{6\pi}{7}+1
= 0
\end{align}

となるため,求める答えは

\begin{align}
\cos\frac{2\pi}{7}+\cos\frac{4\pi}{7}+\cos\frac{6\pi}{7}
= -\frac{1}{2}
\end{align}

となります。

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