本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
直交空間
$V$を$\mK$上の内積空間とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。$S$を$V$の空でない部分集合とするとき,$S$のすべての元と直交するような$V$の元全体の集合$S^{\perp}$は$V$の部分空間となり,これを$S$の直交空間という。
直交空間は固有空間の性質を記述する際に便利な概念です。
補足
以下では,和$S^{\perp}$が$V$の部分空間であることを確認します。まず,$s_{1},s_{2}\in S^{\perp}$,$s\in V$に対し,内積がエルミート双一次形式の線型性を満たすことに注意すると,$(\cdot\mid \cdot)$を標準内積として
(s_{1}+s_{2}\mid s) &= (s_{1}\mid s)+(s_{2}\mid s) &&= 0+0 &&= 0
\end{alignat}
となるため,$s_{1}+s_{2}\in S^{\perp}$となります。すなわち,$S^{\perp}$は加法に閉じていることが分かりました。次に,任意の実数$c$に対し,先ほどと同様に内積がエルミート双一次形式の線型性を満たすことに注意すると,
(cs_{1}\mid s) &= c(s_{1}\mid s) &&= 0 \label{3}
\end{alignat}
となるため,$cs_{1}\in S^{\perp}$となります。すなわち,$S^{\perp}$はスカラー倍に閉じていることが分かりました。最後に,式($\ref{3}$)で$c=0$とすると,$0\in S^{\perp}$が成り立ちます。以上より,和$S^{\perp}$が$V$の部分空間であることが示されました。
式($\ref{3}$)でエルミート双一次形式の性質より$c$は共役複素数として標準内積の外に出されますが,$c$が実数であることから$c$のまま出されていることに注意して下さい。
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