【徹底解説】京大知能情報の過去問分析

本稿では,京都大学情報学研究科知能情報学の過去問を分析します。主に最近の傾向や狙われやすい分野,難易度などをお伝えします。受験科目決めに活用していただければ幸いです。当サイトでは,過去問の解答解説を販売しておりますので,こちらも併せてご活用下さい。

目次

はじめに

研究室の入れ替わりや情報学分野の急速な発展により,知能情報学専攻の過去問は様々な遷移を経てきました。本項では,以下の分野に対して,難易度と出題分野をまとめていきます。

  • 線形代数
  • 微分積分
  • アルゴリズムとデータ構造
  • 統計学
  • 機械学習
  • 情報理論
  • 信号処理

各論に入る前に,難易度の全体的な傾向をお伝えしておきます。難易度はCが一番低く,Sが一番高いです。

  • S:非常に難しい。解けなくてよい。
  • A:難しい。解けると差がつく。
  • B:標準。解けることが前提。
  • C:易しい。解けないと厳しい。

「-」は該当する分野が出題されなかった年度であることを表しています。機械学習と情報理論は難易度の高い年と低い年のばらつきが大きいことが分かります。一方で,線形代数は難易度が低い水準で推移しています。微分積分,アルゴリズムとデータ構造,統計学,信号処理は標準的な難易度で推移しています。

各論

線形代数

スクロールできます
年度難易度正則行列式固有空間標準化対称行列符号線型写像行列分解代数系
2023B$\cm$$\cm$$\cm$
2022A$\cm$$\cm$
2021B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2020C$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2018C$\cm$$\cm$
2017C$\cm$$\cm$
2016----------
2015----------
2014----------
2013----------
2012C$\cm$
2011C$\cm$
2010C$\cm$$\cm$
2009C$\cm$
2008C$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
備考逆行列外積固有値
固有ベクトル
$n$乗
因数分解
実対称
実歪対称
(半)正定値
二次形式
表現行列
回転行列
ベクトル空間
LU分解非可換環
線形代数の過去問分析

線形代数は難易度が低水準を推移している科目の一つです。2008年〜2018年は線形代数は専門科目として出題され,2019年以降は情報学基礎として出題されています。2008年〜2012年までは,表現行列や固有値・固有ベクトル,外積など線形代数の典型的な出題が続きました。2013年〜2016年は,線形代数・微分方程式・確率統計・複素解析・微分方程式が試験範囲に含まれていました。2017年に線形代数は再び復活し,2018年までごく基本的な内容の出題が続きました。2019年から情報学基礎としての出題となり,傾向も若干変わりました。従来通り,正則行列・行列式・固有値・固有ベクトルに関する典型的な出題がなされるだけでなく,近年の顕著な傾向として対称行列と行列の符号に関する出題が目立ちます。行列の符号は内積空間やエルミート形式・二次形式の理解が必須であり,学部レベルの線形代数の集大成ともいえることから,妥当な傾向だと個人的には感じています。特に,対称行列は行列の符号に関して特徴的な性質をもつことから,特に狙われやすいトピックとなっています。一方,2022年は大きく出題傾向が変わり,行列分解と代数系に関する出題となりました。2023年も変化後の傾向を踏襲してベクトル空間に関する出題となっており,今後は行列の$n$乗というテクニックではなく,線型代数そのものに対する基本的な理解が必須となるでしょう。

微分積分

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年度難易度数列極限偏微分重積分有名関数その他
2023C$\cm$$\cm$$\cm$
2022C$\cm$$\cm$
2021B$\cm$$\cm$$\cm$
2020B$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$
2018A$\cm$$\cm$$\cm$
2017B$\cm$$\cm$$\cm$
2016B$\cm$
2015A$\cm$
2014A$\cm$
2013------
2012C$\cm$$\cm$
2011B$\cm$$\cm$
2010A$\cm$$\cm$
2009A$\cm$$\cm$$\cm$
2008A$\cm$
備考級数
テイラー展開
極限最大最小求積
極座標変換
ガウス積分
Involute曲線
ガンマ関数
逆三角関数
双曲線関数
複素関数
代数学
微分方程式
微分積分の過去問分析

微分積分は以前は難易度が比較的高めで推移しており,最近は標準レベルを推移している科目の一つです。2008年〜2018年は線形代数は専門科目として出題され,2019年以降は情報学基礎として出題されています。2008年〜2016年までは,最大最小問題や数列の極限,求積問題など微分積分の典型的な出題が続きました。ただし,2013年は数学が統計学に化けたため,微分積分の出題はありませんでした。加えて,2008年,2009年,2014年,2016年は微分積分学の範囲から少し逸れて複素関数や代数学,微分方程式が出題されました。これは上述の通り2013年〜2016年の数学では線形代数・微分方程式・確率統計・複素解析・微分方程式が試験範囲に含まれていたからです。一方で,2017年以降は安定して極限,偏微分,重積分に関する出題が続いています。2019年から情報学基礎としての出題となり,偏微分と重積分が重視される傾向が色濃くなりました。他にも,ガンマ関数や逆三角関数,双曲線関数など有名関数に関する出題も狙われやすいトピックとなっています。

アルゴリズムとデータ構造

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年度難易度計算量ソート探索DPグラフ計算機種々の
アルゴリズム
2023B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2022B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2021A$\cm$$\cm$$\cm$
2020B$\cm$$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$$\cm$
2018C$\cm$$\cm$
2017C$\cm$$\cm$
2016B$\cm$$\cm$
備考比較回数
時間計算量
Heap Sort
Quick Sort
Merge Sort
Quick Select
B木
二分探索木
挿入/削除
編集距離
分割統治法
有向グラフ逆ポーランド記法ハッシュ
互除法
マッチング
アルゴリズムとデータ構造の過去問分析

アルゴリズムとデータ構造は難易度が比較的低めで推移している科目の一つです。2021年度の難易度はAとなっていますが,これは問題数の多さとクイックセレクトの計算量が問われたことに起因しており,他の問題はごく基本的な内容の出題となっています。2008年〜2015年はグラフ理論や離散数学,プログラミング論などと併せて出題されており,2016年以降よりも難易度の高い出題がなされました。具体的には,川渡り問題や$\alpha$-$\beta$法,ダイクストラ法,$A^{\ast}$アルゴリズムなどが問われていました。繰り返しにはなりますが,最近ではこれらのトピックを問われることは少なく,基本的なソートアルゴリズムや探索アルゴリズムなど,問われる内容はごく基本的な内容に限られています。近年の傾向としては,計算量に関する問題が出題され,トピックとしてはソートか探索のいずれかが問われることが多いです。さらに,2020年以降は動的計画法に関する出題が増えています。2022年はやや傾向が変化し,グラフと計算機に関する出題となりました。2023年も変化後の傾向を踏襲してグラフ理論に関する出題がなされていますが,内容としてはごく基本的な内容に限られていますので,グラフ理論の対策自体は必須であるものの,深く踏み込んだ学習は不要と考えられます。

統計学

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年度難易度場合の数確率変数確率分布区間推定仮説検定論述
2023C$\cm$$\cm$$\cm$
2022C$\cm$$\cm$$\cm$
2021C$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2020B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2018A$\cm$$\cm$$\cm$
2017C$\cm$$\cm$
2016B$\cm$$\cm$$\cm$
2015B$\cm$$\cm$$\cm$
2014B$\cm$$\cm$
2013B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2012C$\cm$
2011C$\cm$$\cm$
2010C$\cm$$\cm$
備考組合せ独立
相関
連続
離散
母平均
母比率
$z$検定
独立性
用語
統計学の過去問分析

統計学は一昔前は難易度が低めで推移しており,最近は標準的なレベルで推移している科目の一つです。2018年度の難易度はAとなっていますが,これはカイニ乗分布に関連するやや複雑な計算が問われたことに起因しており,問われている内容自体は基本的な出題となっています。2008年〜2009年は心理学の一部に統計学が出題され,科目として独立していませんでした。2010年〜2012年は数学の一部に統計学が出題されました。問題数が少ないことに加え,問われている内容がごく基本的な内容に限られていたため,難易度としてはCとなっています。2013年以降は統計学が専門科目の一つとして独立し,一貫して確率変数の性質(期待値・分散・共分散・最尤推定など)と確率分布が問われています。過去に問われた確率分布としては,一様分布,指数分布,ベータ分布,ポアソン分布,ベルヌーイ分布,正規分布,超幾何分布,カイ二乗分布が挙げられます。これを見ても分かる通り,出題される分布は基本的な分布に限られています。また,新しい傾向として,2019年以降は論述問題が出題されました。受験生には,統計学の基本的な概念を言語化して正確に記述できるようになることが求められています。用語としては,区間推定や仮説検定周りの概念が問われることが多いです。一方で,ベイズ推定,すなわち条件付き確率に関しては機械学習の分野で問われることが多いです。

機械学習

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年度難易度識別関数確率関数NNベイズ教師なし
2023C$\cm$$\cm$
2022B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2021B$\cm$$\cm$
2020A$\cm$$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$$\cm$
2018A$\cm$$\cm$$\cm$
2017B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2016B$\cm$$\cm$
2015B$\cm$$\cm$
2014S$\cm$$\cm$$\cm$
2013C$\cm$
2012B$\cm$$\cm$
2011A$\cm$$\cm$$\cm$
2010B$\cm$$\cm$$\cm$
2009B$\cm$$\cm$
2008B$\cm$
備考パーセプトロン
識別境界
ニ乗誤差
最尤推定
MAP推定
誤差逆伝播
非線形関数
条件付き確率PCA
部分空間法
クラスタリング
機械学習の過去問分析

機械学習は標準以上の難易度で推移している科目の一つです。数学や統計学とは異なり,2008年から独立した専門科目として出題が続いています。一昔前の傾向としては,ニ乗誤差関数と正規分布の最尤推定の等価条件や,PCA(主成分分析)における平均ニ乗誤差最小化基準と分散最大化基準の等価性が問われており,識別問題を識別関数と確率関数の両側面から捉える出題傾向が顕著でした。最近の傾向としては,NN(ニューラルネットワーク)に関する出題が挙げられます。パーセプトロン学習規則に関しては一昔前から問われていましたが,最近では誤差逆伝播や非線形関数の利点に関する出題がありました。2014年の難易度はSとなっていますが,この年は部分空間法が問われました。部分空間法は機械学習の分野として学習必須ではあるものの,知能情報学専攻の入試問題で問われやすいトピックではありません。本文中にCLAFIC法の説明はありますが,読解には基本的な数学の素養が必要とされることに加え,多くの受験生が他のトピックと比べて対策が手薄になっていた可能性が高いため,難易度をSとしました。2018年以降の傾向としては,条件付き確率・条件付き分布がよく問われています。尤度関数の設定,最尤推定,事前分布の設定,MAP推定など,ベイズ推定の基本をおさえておけば解くことができる標準的な出題となっています。

情報理論

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年度難易度情報量マルコフ
情報源
通信路種々の
符号化
一意復号性復号誤り
2023C$\cm$$\cm$$\cm$
2022B$\cm$$\cm$
2021B$\cm$$\cm$$\cm$
2020B$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$$\cm$
2018A$\cm$$\cm$
2017B$\cm$$\cm$
2016B$\cm$$\cm$
2015C$\cm$$\cm$
2014B$\cm$$\cm$$\cm$
2013A$\cm$$\cm$
2012B$\cm$$\cm$
2011S$\cm$$\cm$$\cm$$\cm$
2010B$\cm$$\cm$
2009A$\cm$$\cm$
2008B$\cm$$\cm$
備考相互情報量
エントロピー
漸近的性質
定常分布
通信路容量シャノンファノ
ハフマン
コンパクト
平均符号長
瞬時符号
通信路
符号化定理
情報理論の過去問分析

情報理論は一昔前は難易度が高めで推移しており,最近は標準的なレベルで推移している科目の一つです。数学や統計学とは異なり,2008年から独立した専門科目として出題が続いています。一昔前の難易度が高めで推移していたのは,やや複雑な数式が多かったことに起因していますが,最近で込み入った数式が問われる問題は少ないです。一昔前から全体的な傾向は変わらず,マルコフ情報源,通信路,符号化に関する出題がほとんどです。具体的には,提示されたマルコフ情報源の漸近的な性質や通信路容量を求める問題,問題文で提示されている手続きに従って符号化を行う問題が出題されています。毎年エントロピーや相互情報量といった情報量に関する基本的な概念が問われていることも特徴的です。符号化方式としてはシャノン・ファノ符号とハフマン符号がよく問われています。他にも,コンパクトや瞬時符号など一意復号性に関わるトピックが頻出です。復号誤りに関わる問題の難易度の差は激しく,2015年は簡単な最大最小問題に帰着した一方で,2011年は通信路符号化定理の証明に関する問題が出題されました。この年度の問題は,現在は京大から離れてしまった西田先生が作問したものと考えられます。当時の授業資料をしっかりと復習していた人,もしくは数学的な素養を持ち合わせている人でなければ解くことは難しかったでしょう。2018年の復号誤りに関する問題は,最尤復号法という機械学習・統計にも通じるトピックですが,これらに精通していない受験生は戸惑ったことでしょう。最尤復号法は情報理論としては必須のトピックではあるものの,受験問題として頻出ではないため難易度はAとしました。最近の情報理論の難易度は落ちついてきており,比較的勉強しやすい分野ですので,研究で利用する予定でなくとも受験科目の一つに組み入れる選択肢があってもよいかもしれません。

信号処理

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年度難易度フーリエ変換$z$変換FFTフィルタ符号化二次元信号
2023A$\cm$$\cm$$\cm$
2022C$\cm$
2021C$\cm$$\cm$
2020B$\cm$$\cm$
2019B$\cm$$\cm$
2018C$\cm$
2017B$\cm$$\cm$
2016C$\cm$$\cm$
2015-------
2014-------
2013B$\cm$
2012B$\cm$
2011B$\cm$$\cm$
2010B$\cm$$\cm$
2009A$\cm$
2008A$\cm$$\cm$
備考連続
離散
標本化定理
ブロック線図FIR/IIR
変調
DCT
信号処理の過去問分析

信号処理は難易度が標準以下で推移している科目の一つです。数学や統計学とは異なり,2008年から独立した専門科目として出題が続いていますが,2014年と2015年は信号処理分野の出題はありませんでした。出題傾向は2014年以前と2015年以降で大きく変わっている点に注意してください。2014年以前は標本化定理や変調方式など,数式を用いた古典的な信号処理の出題が続きました。一方で,2015年以降は$z$変換を用いたシステムの構成や安定性に関する出題が目立ちます。また,連続フーリエ変換及び離散フーリエ変換の性質や計算問題は毎年問われ続けている点が特徴的です。特に,2008年と2019年にはFFTに関する出題がありました。2009年に符号化に関する論述問題が出題され,2020年にはDCT(離散コサイン変換)を用いた符号化に関する論述問題が出題されました。離散コサイン変換は二次元信号に適用されることもありますが,2020年度の問題ではその詳細なしくみを問われることはありませんでした。一方で,2008年度は二次元データに対する信号処理のしくみを問われましたが,これは例外的なケースと考えてよいでしょう。最近は基本的なフーリエ変換の計算と$z$変換の性質を利用する問題が続いており,得点源にできる可能性が高い分野ともいえます。2023年は2008年の初年度ぶりに2次元信号に関する出題となりました。とはいえ,微分積分をおさえておけば十分解答可能な内容であるため,2次元信号に対する対策は必須ではないでしょう。

おわりに

京大情報学研究科の知能情報学専攻は,周りのレベルの高さはもちろんのこと,学生に対する教育体制や授業の質など,申し分ない教育環境が整えられていると思います。私は知能情報学専攻に入学することができて,本当に幸せでした。

私が知能情報学専攻を目指そうと決意したのは,学部3回生の秋頃だったかと思います。決意はしたものの,周りに助けを求める人が全くおらず,まさに暗中模索しながら院試対策を行いました。過去問を見たときに,各問題がどの分野に対応しているのかが全く分からないレベルからのスタートでした。信じられたのは勉強することだけで,暇さえあれば何かしらの勉強をしていました。トイレをしている間に頭の中でフーリエ変換の導出を確認し,食事を取っている間に単語帳を暗記し,シャワーを浴びている間にスピーキング練習を行いました。本当に発狂しそうな体験でした。しかし,月並みな言葉ですが,今の自分を形作っているのは当時の辛い経験だと強く感じています。しかし,皆さんには必要以上の辛い経験はしてほしくありません。

当サイトでは情報学研究科,特に知能情報学専攻を目指される方のサポートを行なっております。具体的には,過去問解答解説の販売や適切な勉強方針の策定,志望理由書の添削などを行なっております。恐縮ながら一部有料とはなりますが,皆さんの充実した大学院生活のため全力でお力添えしたいと思っていますので,極力コストを下げております。詳しくは,以下のページをご覧ください。

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