【読書記録】傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

目次

はじめに

私が読書を始めたキッカケや他に読んだ書籍については,以下のページにまとめています。

基本情報

タイトル傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める
著者大津 秀一
出版社大和書房
発売日2020年04月11日
ページ数304ページ

概要と感想

本書は,早期緩和ケアを専門とする著者が傾聴を解説する書籍である。他には見られない独自の切り口で傾聴の本質に迫り,「生と死」のような人間の最も深い場所から傾聴を眺められる良書である。個人的には,傾聴関連の書籍では『心理学に学ぶ鏡の傾聴』の次におすすめしたい。内容は体系立てられているとはいえないものの,人間の本質に迫るような切れ味があり,傾聴を学ぶ上では一般的な解説書に加えて,本書のような異なる視点を取り入れておくとよいだろう。

著者はまず,人を支え,苦悩を癒し,乗り越える手段を提供するのは「聴くこと」であると主張している。従来,傾聴は病気が進行して話を聴くこと以外にできることがなくなってしまったケースで用いられてきた。しかし現在は,緩和ケアの現場においても「治療的対話」として積極的に活用されている概念である。

緩和ケアにおいては,痛みを次の4つに分類している。

  1. 身体の苦しみ
  2. 精神的な苦しみ
  3. 社会的な苦しみ
  4. スピリチュアルペイン

4.のスピリチュアルペインは,決して巷に溢れる「スピリチュアリズム(心霊主義)」ではなく,存在自体の苦しみのことを指している。これらの苦しみは互いに絡み合い,悪循環を形成していくものである。スピリチュアルペインは最も根源的な苦しみの1つであると位置付けられる。

身体的な苦しみ,精神的な苦しみ,あるいは社会的な苦しみの一部が損なわれても,それですぐに存在の苦しみが脅かされるわけではない。しかし,どれか一つが致命的に損なわれた場合には,スピリチュアルペインが引き起こされるという関係性になっている。例えば,道で数百円を落としただけで存在の苦しみを感じることは少ない。しかし,リーマン・ショック級の経済的損失を被った場合には,「今までの頑張りは何だったのか」というスピリチュアルペインを感じることがある。

スピリチュアルペインは,一生そのままというわけではない。環境さえ良好であれば,自然治癒力によって回復していく。その回復の方向性には,「より大きな力に救いを求める(すがる)」か,「自ら乗り越えようとする」かの二つがある。スピリチュアルケアとは,存在の意味と向き合う人を支え続けることであり,相手が答えを見つけるまでそばに居続けることを目指すものである。

スピリチュアルペインは,次の三つの柱から構成されている。これら三つの柱のうち一つが崩れるとスピリチュアルペインのバランスも崩れるが,他の二つの柱が太くて丈夫であれば,バランスを保てることもあるという。

  1. 時間存在(将来や未来)
  2. 関係存在(他者とのつながり)
  3. 自律存在(自らのことを自らが決めること)

第二次世界大戦時に強制収容所に入れられた精神科医・心理学者のV・E・フランクルは,「人間が生きることには,つねに,どんな状態でも,意味がある」と表現している。また,エリザベス・キューブラー・ロスはフランクルの思想として,「人生の意味を問うのではなく,人生から問われているのだ」という趣旨の表現をしている。

「なぜ生きるのか」という疑問に対する明確な答えはない。傾聴においては,生や死への問いに対して無理に答える必要はないのだ。ときには沈黙があってもよいだろう。傾聴を通して達成すべきは,そこに在る「意味」を見出すお手伝いをすることである。すなわち,その方にとっての「生の意義」を探すプロセスを,誠実にサポートすることなのである。

ここで,本書の最も大切なキーワードである「物語」という語が登場する。スピリチュアルケアの第一人者である田村恵子によれば,「時間は意味の連関としての物語をつくりだす」としている。著者は改めて次のように整理している。

人は過去と現在を通して,それぞれの「物語」を作り,それを背景として,また新しい未来に心を傾けてゆく,未来を作り上げてゆく,ということです。

『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』p.95より引用

この「物語」という語を用いて,著者は本書の全体像となるような整理を次のようにしている。

人にはそれぞれの人生の物語があります。それを背景として生きています。しかし危機を通して存在の意義は揺らぎ,その物語が変容してしまいます。けれども傾聴を通して,新しい物語(構造)を再構成するのを援助することで,あるいは生活の質を改善する物語を引き出し紡ぎ出すことで,その物語は生きる意味を再び与えてくれるものへと変化します。

つまりスピリチュアルケアとは,そのような方法を通して,苦悩者自身が人生に新しい意味合いを付与するお手伝い,支援,援助をすることにあると言えるでしょう。それゆえ,その方の物語をつかみ,その方の背景を知ることが大切であり,だからこそ傾聴が重要なのです。

…人を変えるのはその人自身です。援助者は,だから,「変えようと積極的に思う」のではありません。何か新しい良い物語が生まれることを願いながら,物語を聴くのです。人生を,その背景を理解しようとするのです。

『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』p.96.97.158より引用

本書はようやくここから傾聴の技術に関する話に入っていく。先ほどまでの文脈を踏まえると,傾聴では次のポイントが大切になる。

  1. その方の一番気がかりとなっていることを聴く
  2. 4側面(身体・精神心理・社会・スピリチュアル)の苦しみを聴く
  3. その方の物語を意識しながら聴く(可能であれば今に至るまでの経過を聴いて物語をつかむ)

人は言葉だけでメッセージを送っているのではなく,言語的メッセージ,準言語的メッセージ,非言語的メッセージの3種類を使い分けているという。言語的メッセージとは言語情報のこと,準言語的メッセージとは声の質や大きさ,言葉の速さ,抑揚,沈黙などの聴覚情報のこと,非言語的メッセージは物理的距離,位置関係,姿勢,身体の向き,視線などの視覚情報を指す。

メラビアンの法則では,感情や態度について矛盾したメッセージが発せられたときの人の受け止め方について,与える影響は言語的メッセージがわずか7%,準言語的メッセージが38%,非言語的メッセージが55%を占めるという結果が示されている。つまり,人は「言葉以外」の要素から強く影響を受けるということが示唆される。

自分自身も経験があることだが,言語的なメッセージで傾聴しようとしていることを表現しても,その態度や雰囲気が伴っていなければ,相手は「この人は形だけだな」と勘付いてしまう。傾聴を行うためには,言語的なテクニックに終始するのではなく,まずは非言語的メッセージ(視覚情報)や準言語的メッセージ(聴覚情報)の姿勢から,傾聴の形を作っていく必要がある。

具体的には「和顔愛語」で接する必要がある。和顔とは優しげな顔つきのこと,愛語とは親愛の気持ちがこもった言葉のことである。つまり,まずは優しい顔が必要で,その後に優しい言葉をかけるべきだということなのだ。また,個人的には傾聴において「憑依」が大切であると考えていたが,本書では「援助者は苦悩者と一体化することが目的ではない」と一刀両断されている。傾聴には「苦を見出す」「物語を引き出して支える」という役割があるため,援助者が話し手に憑依する必要はないということなのだ。

よく傾聴では「要約と明確化」が大切であるとされるが,私個人としてはこれらを鬱陶しいと感じることがある。たしかに,自分では気づかなかった気持ちに気づけるケースもあるが,多くの場合,聴き手が自己満足のために毎回のラリーで欠かさず要約を挟んでくるからだ。特に,その要約が事実や事柄をまとめただけであれば,それを聞かされている時間は苦痛でしかない。これは実はブーメランで,私自身も少し前までは事実や事柄の要約をひたすら繰り返していた時期があった。今は要約と明確化は「気持ち」に対して行い,くどくならない程度にとどめるようにしている。


筆者は,「受容」という言葉はもう使うべきではない(好きではない)と主張している。受容という言葉は,「〇〇さんはがんを受容しました」のように,主に他人の評価に用いられる語だからである。実際,当事者が「私はがんを受容しました」と言うことはない。また,そもそも苦悩者のすべてを受容するのは不可能であり,実際には受け「止めて」いるに過ぎない。どちらかといえば,「同化」と表現した方がよいと述べられている。「受け止めることができるかもしれない。その助けに僅かでもなれることを願ってお支えする,お話をお聴きする」という表現が,筆者の考えに近いものであるという。

最後に,本書の理念に近い一節を引用して本稿を締めくくる。

それぞれに物語があります。そして一人ひとりの物語は,他の誰にもない,その人だけの物語なのです。その一回性,そのかけがえのなさを思う時,人は自らの物語を今一度違った視点から見つめ,愛おしく抱きしめることができるでしょう。そして明日への大きな糧となるに違いありません。

『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』p.285より引用

参考文献

大和書房
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