本記事は数学の徹底解説シリーズに含まれます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
相違なる固有値と広義の固有空間
$V$を$\mK$上の$n$次元内積空間とする。ただし,$\mK$は複素数空間$\mC$または実数空間$\mR$を表す。$F$を$V$の線型変換とし,$F$の相違なる固有値を$\alpha_{1},\ldots,\alpha_{s}$,それらに対する広義の固有空間を$\tilde{W}(\alpha_{1}),\ldots,\tilde{W}(\alpha_{s})$とする。このとき,
Z &= \tilde{W}(\alpha_{1})+\cdots+\tilde{W}(\alpha_{s})
\end{align}
は直和である。
本質的には相異なる固有値に対する広義の固有ベクトルは一次独立になるという定理に基づきます。
証明
相異なる固有値に対する広義の固有ベクトルは一次独立になることより自明とするケースも多いですが,ここでは丁寧に証明しておきます。上の主張を示すためには,$i=1,\ldots,s$に対して,$Z$の元を$\tilde{W}(\alpha_{i})$の元の和として表すとき,それが一意的であることを示せばよいです。そこで,$Z$の元$z$が$\tilde{W}(\alpha_{i})$の元の和として
z &= v_{1}+\cdots+v_{s} &&= v^{\prime}_{1}+\cdots+v^{\prime}_{s}\label{二通り}
\end{alignat}
のように二通りに表されたとします。ただし,$v_{i},v^{\prime}_{i}\in W(\alpha_{i})$とします。このとき,式($\ref{二通り}$)を整理すると,
(v_{1}-v^{\prime}_{1})+\cdots+(v_{s}-v^{\prime}_{s}) &= 0
\end{align}
となります。すなわち,$v^{\prime\prime}_{i}=v_{i}-v^{\prime}_{i}$とおくと,
v^{\prime\prime}_{1}+\cdots+v^{\prime\prime}_{s} &= 0\label{一次独立}
\end{align}
となります。ただし,$v_{i},v^{\prime}_{i}\in\tilde{W}(\alpha_{i})$より$v^{\prime\prime}_{i}\in\tilde{W}(\alpha_{i})$となります。すると,相異なる固有値に対する広義の固有ベクトルは一次独立になることから,式($\ref{一次独立}$)が成り立つためには
v^{\prime\prime}_{1} &= \ldots &&= v^{\prime\prime}_{s}
\end{alignat}
でなくてはなりません。すなわち,$v_{i}=v^{\prime}_{i}$となり,$z$が$\tilde{W}(\alpha_{i})$の元の和として一意的に表されることが示されました。
コメント