本記事では,数学検定1級で頻出のトピックについてまとめていきます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
Pell方程式とその解法
平方数ではない任意の自然数$D$に対し,次の方程式をPell方程式という。
x^{2} - Dy^{2} &= 1
\end{align}
Pell方程式は必ず自明な解$(x,y){=}(1,0)$をもつ。$x{+}\sqrt{D}y$を最小にするような非自明な解を$(x_{1},y_{1})$とおくと,他の自然数解$(x_{n},y_{n})$は
x_{n} + y_{n}\sqrt{D} &= (x_{1} + y_{1}\sqrt{D})^{n}\label{pell}
\end{align}
で得られ,それですべてを尽くす。
右辺が$-1$の場合もPell方程式といいますが,この形の場合は$D$の値に依存して解が存在しないこともあり解法も複雑であるため,数学検定1級では右辺が$1$の場合が問われることになるでしょう。なお,この形の方程式の一般的な解法はウィリアム・ブランカーが発見したとされており,オイラーがこの方程式を研究したのはジョン・ペルであると誤解して「ペル方程式」と命名したことが名前の由来になっているらしいです。
証明
Pell方程式が解$(x,y){=}(1,0)$をもつことは代入すれば自明ですので,Pell方程式の解が式($\ref{pell}$)で得られ,それですべてを尽くすことを証明します。
Pell方程式の解が式($\ref{pell}$)で得られること
双曲線関数の定義より,次の$(x,y)$はPell方程式($\ref{pell}$)を満たします。
x = \cosh t,\quad y = \frac{\sinh t}{\sqrt{D}}\label{双曲線}
\end{align}
ここで,解$(x,y)$が見つかれば
(x, -y),\quad (-x,y),\quad (-x, -y)
\end{align}
もまた解になるため,$y{\geq}0$としても一般性を失わないです。すると,$\sinh t$の定義より$t{\geq}0$となります。自明な解$(x,y){=}(1,0)$を満たすのは$t{=}0$であり,この点以外で$\cosh t{=}1$を満たす点は存在しないため,$t{>}0$としてもよいことが分かります。
いま,式($\ref{双曲線}$)の形でPell方程式($\ref{pell}$)を満たす$t$のうち最小の値を$t_{1}$とすると,
x_{1} = \cosh t_{1},\quad y_{1} = \frac{\sinh t_{1}}{\sqrt{D}}
\end{align}
とおくことができます。双曲線関数の定義より
(\cosh x + \sinh x)^{n}
&= \left(\frac{e^{x}+e^{-x}}{2}+\frac{e^{x}-e^{-x}}{2}\right)^{n}
= (e^{x})^{n}
= e^{nx}\\[0.7em]
&= \left(\frac{e^{nx}+e^{-nx}}{2}+\frac{e^{nx}-e^{-nx}}{2}\right)
= \cosh(nx) + \sinh (nx)
\end{align}
となることから,
(x_{1}+\sqrt{D}y_{1})^{n}
&= (\cosh t_{1}+\sinh t_{1})^{n}
= \cosh(nt_{1})+\sinh(nt_{1})
\end{align}
が得られます。これより,
x_{n} = \cosh(nt_{1}),\quad y_{n} = \frac{\sinh(nt_{1})}{\sqrt{D}}
\end{align}
とすれば,$(x_{n},y_{n})$もPell方程式($\ref{pell}$)を満たすことが分かります。
Pell方程式の解が式($\ref{pell}$)ですべてを尽くすこと
仮にある解$(x,y)$が存在して別の$t$に対応し,その$t$が$t_{1}$の整数倍でないとすると,
0 < t-nt_{1} < t_{1}
\end{align}
を満たす適当な$n$をとることができます。$t{-}nt_{1}$も双曲線関数に当てはめることができ,
\begin{cases}
\cosh (t-nt_{1}) = \cosh t\cosh (nt_{1})-\sinh t\sinh (nt_{1})\\[0.7em]
\sinh (t-nt_{1}) = \sinh t\cosh (nt_{1})-\cosh t\sinh (nt_{1})
\end{cases}
となることから,
x = \cosh(t-nt_{1}),\quad y = \frac{\sinh(t-nt_{1})}{\sqrt{D}}
\end{align}
も整数となります。これより,$t{-}nt_{1}$は式($\ref{双曲線}$)の形でPell方程式($\ref{pell}$)を満たす$t_{1}$よりも小さな正の整数解となり,$t_{1}$が最小である仮定に矛盾します。したがって,$t_{1}$の整数倍でない$t$で,式($\ref{双曲線}$)の形でPell方程式($\ref{pell}$)を満たす$t$は存在しないことが示されました。
例題
$x^{2}-2y^{2}=1$の自然数解$(x,y)$の中で,$x>100$となる解を$1$組求めよ。
$(x,y)=(3,2)$は方程式を満たします。求める解は$1$組であることから,この$(x,y)$が$x+\sqrt{2}y$を最小にする解であるかの吟味は不要です。上で示したPell方程式の解の性質より,
x_{n}+y_{n}\sqrt{D} &= (3+2\sqrt{2})^{n}
\end{align}
で解$(x_{n},y_{n})$が得られます。$n=2$のとき,
(3+2\sqrt{2})^{2} &= 17 + 12\sqrt{2}
\end{align}
より$(x_{2},y_{2})=(17,12)$となり,$x_{2}>100$を満たせず不適です。$n=3$のとき,
(3+2\sqrt{2})^{3} &= 99 + 70\sqrt{2}
\end{align}
より$(x_{3},y_{3})=(99,70)$となり,$x_{3}>100$を満たせず不適です。$n=4$のとき,
(3+2\sqrt{2})^{4} &= 577 + 408\sqrt{2}
\end{align}
より$(x_{4},y_{4})=(577,408)$となり,$x_{4}>100$を満たすことができました。以上より,求める答えは
(x,y) &= (577,408)
\end{align}
となります。
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