本記事では,数学検定1級で頻出のトピックについてまとめていきます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
直交補空間の求め方
$V$を$\mR$または$\mC$上の計量線形空間$V$の部分空間,$W$を$V$の部分空間とする。このとき,$W$のどのベクトルとも直交する$V$のベクトル全体は$V$の部分空間となり,これを$W$の直交補空間と呼び,$W^{\perp}$と書く。
計量線形空間とは,$\mR$上の実計量ベクトル空間または$\mC$上の複素計量ベクトル空間のことを指します。直交補空間の求め方は,本質的には「内積$=0$という連立方程式を解く」だけです。
具体例
$\va_{1}=(1,-2,-3,2)^{T}$,$\va_{2}=(3,-2,-1,6)^{T}$によって張られるベクトル空間$\mR^{4}$の部分空間を$W$とするとき,$\mW$の直交補空間$\mW^{\perp}$の基底を求めよ。
解答
$\vx=(x_{1},x_{2},x_{3},x_{4})^{T}\in W^{\perp}$とおくと,直交補空間の定義より$\vx\cdot\va_{1}=0$かつ$\vx\cdot\va_{2}=0$となります。すなわち,
A &=
\begin{pmatrix}
1 & -2 & -3 & 2\\
3 & -2 & -1 & 6
\end{pmatrix}
\end{align}
とおくと,$\vx$は$A\vx=0$の解となります。$A$を行基本変形すると
\begin{pmatrix}
1 \!\!& -2 \!\!& -3 \!\!& 2\\
3 \!\!& -2 \!\!& -1 \!\!& 6
\end{pmatrix}
\rarr
\begin{pmatrix}
1 \!\!& -2 \!\!& -3 \!\!& 2\\
0 \!\!& 4 \!\!& 8 \!\!& 0
\end{pmatrix}
\rarr
\begin{pmatrix}
1 \!\!& -2 \!\!& -3 \!\!& 2\\
0 \!\!& 1 \!\!& 2 \!\!& 0
\end{pmatrix}
\rarr
\begin{pmatrix}
1 \!\!& 0 \!\!& 1 \!\!& 2\\
0 \!\!& 1 \!\!& 2 \!\!& 0
\end{pmatrix}
\end{align}
となるため,
\begin{cases}
x_{1}+x_{3}+2x_{4}=0\\[0.7em]
x_{2}+2x_{3}=0
\end{cases}
が得られます。$\dim(\vx)=4$かつ$\mathrm{rank}\; A=2$より変数を$2$つ導入すればよいです。$x_{3}=s$,$x_{4}=t$とおくと,
\begin{cases}
x_{1}=-s-2t\\[0.7em]
x_{2}=-2s
\end{cases}
となるため,
\vx &= s
\begin{pmatrix}
-1\\
-2\\
1\\
0
\end{pmatrix}
+t
\begin{pmatrix}
-2\\
0\\
0\\
1
\end{pmatrix}
\end{align}
と表されるため,直交補空間の基底の一つは$\left<(-1,-2,1,0)^{T},(-2,0,0,1)^{T}\right>$となります。
正規直交基底を得たい場合はグラム・シュミットの直交化法を利用します。
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