はじめに
本稿では,日商簿記2級合格を最短最速で目指すための方法をお伝えします。
簿記について
簿記とは企業の経済活動を記録して財政状態を明らかにする仕組みであり,以下の種類があります。
- 日商簿記(日本商工会議所及び各地商工会議所主催簿記検定試験)
- 全商簿記(全国商業高等学校協会主催簿記実務検定)
- 全経簿記(社団法人全国経理教育協会主催簿記能力検定試験)
巷で言われる簿記は日商簿記のことを指しています。全商簿記は全国商業高等学校協会が主催しており商業高校の生徒が受験することが多く,全経簿記は全国経理教育協会が主催しており経理専門学校の生徒が受験することが多いです。いずれも「会計」の営みを支える簿記という仕組みという意味で共通していますが,簿記の試験といえば日商簿記がデファクトスタンダードとなっています。
以下では日商簿記のことを簿記と省略します。
位置付け
簿記には3級・2級・1級があり,3級は最も基礎的な内容,1級は最も専門的な内容が問われます。会計における最上位資格は公認会計士であるため,簿記はその一部を問うような位置付けとなっています。
級 | 内容 |
---|---|
3級 | 業種・職種にかかわらずビジネスパーソンが身に付けておくべき「必須の基本知識」として,多くの企業から評価される資格。 基本的な商業簿記を修得し,小規模企業における企業活動や会計実務を踏まえ,経理関連書類の適切な処理を行うために求められるレベル。 |
2級 | 経営管理に役立つ知識として,企業から最も求められる資格の一つ。 高度な商業簿記・工業簿記(原価計算を含む)を修得し,財務諸表の数字から経営内容を把握できるなど,企業活動や会計実務を踏まえ適切な処理や分析を行うために求められるレベル。 |
1級 | 極めて高度な商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算を修得し,会計基準や会社法,財務諸表等規則などの企業会計に関する法規を踏まえて,経営管理や経営分析を行うために求められるレベル。 合格すると税理士試験の受験資格が得られる。公認会計士,税理士などの国家資格への登竜門。 |
3級・2級・1級以外にも簿記初級と原価計算初級と呼ばれる試験もあります。
試験範囲
日本商工会議所は簿記試験について区分表と呼ばれる試験範囲を公開しています。商業簿記および会計学は1〜3級の全てで問われるのに対し,工業簿記および原価計算は1〜2級で問われるものとされています。簿記2級では簿記3級で学んだ商業簿記の応用と工業簿記の基本が問われます。
商業簿記(2級との主な差分)
- 連結会計
- 外貨建取引
- リース取引
- 税効果会計
- 圧縮記帳
- 剰余金の配当
- 本支店会計
工業簿記(主な論点)
- 材料費/労務費/経費
- 棚卸減耗と評価損
- 製造間接費の配賦
- 個別/総合原価計算
- 本社工場会計
- 標準原価計算
- 直接原価計算
科目・合格基準・時間・形式・料金
3級と2級は通年でネット試験が開催されており,1級は年2回のペーパーテストとなります。合格ラインはいずれも70%以上となっており,1級のみ各科目で40%以上の得点が必要となります。
項目 | 内容 |
---|---|
科目 | 商業簿記・工業簿記・原価計算(5題以内) |
時間 | 90分 |
合格基準 | 70%以上 |
料金 | 5,500円(税込) |
形式 | 統一試験(年3回)・ネット試験(通年) |
倍率
直近試験の倍率によれば簿記2級の合格率は,統一試験では10〜30%とバラツキがありますが,ネット試験では35〜40%と安定しています。
対策
資格対策書ではない一般書により会計の枠組みを理解します
参考書・Youtube・Udemy・Webページから自分に合ったコンテンツを選びます
本番形式の演習問題を回します
間違えた問題のポイントをまとめて直前に暗記します
読み物で下地準備
資格対策書以外の一般書籍は「資格対策」という枠組みに捉われる必要がないため,会計という分野を概観して理解することができます。最初にこのフレームを身につけることで「簿記2級対策」という枝葉がスッと頭に入ってくるようになります。管理人は会計に関する一般書には複数目を通しましたが,特に以下が良書だと思いました。
金子さんの書籍は会計の本質を手っ取り早く理解することができます。
- 会計の目的と原則
- B/S・P/L・C/Fの意味とそれぞれの繋がり
- 株式の50%超を保有していても子会社にはならない
- 収益という言葉の誤謬
- 会計と税務の関係
- 売上高 < 売上原価(原価割れ)となれば即刻販売を停止するべきか
ここら辺の初学者が気になる内容を切れ味鋭く解説しています。
知識インプット
自分にあったインプットコンテンツとしては以下が挙げられます。
- 参考書
- Youtube
- Udemy
- Webページ
それぞれのコンテンツについて管理人のおすすめを紹介します。
参考書
簿記2級対策としては滝澤ななみさんの次の書籍が有名です。
- 「スッキリわかる」シリーズ
- 「みんなが欲しかった」シリーズ
- 「スゴい!だけじゃない!!」シリーズ
の3シリーズがありますが,個人的には「スッキリわかる」シリーズがおすすめです。
「スッキリわかる」シリーズは長年のベストセラーで,内容の分かりやすさは間違いないです。「みんなが欲しかった」シリーズは手書きの柔らかなフォントで学習の敷居がかなり下げられていますが,個人的には少し見にくく感じてしまいました。テキストの一部に手書きフォントを採用するのであれば分かるのですが,大部分が手書きフォントで構成されているため視認性が低くなってしまっています。「スゴい!だけじゃない!!」は滝澤ななみさんの新しいシリーズですが,個人的には情報の構成方法があまり好きではありませんでした。イラストや吹き出しを多用しすぎていて逆に読みにくいです。その点,「スッキリわかる」シリーズは論点別に学ぶべき内容がスマートに整理されているため個人的には好みでした。ページ両脇の余白はワンポイント補足のような使い方をされており,この構成は大学の専門書でもよく採用されているフォーマットであるため親しみやすかったです。
Youtube
管理人は書籍をベースとして理解に時間がかかった部分やそもそも理解できなかった部分をYoutubeで調べるという使い方をしていました。特にお世話になったのは以下のチャンネルです。
- 公認会計士たぬ吉の資格塾さん
- マネトクさん
たぬ吉さんの工業簿記講座の分かりやすさはピカイチです。工業簿記講座は無料公開されていますが,商業簿記講座は有料講座となっています。簿記2級では工業簿記よりも商業簿記の方が圧倒的に難易度が高いため,このようなマネタイズになっているものと思われます。管理人は有料講座は利用しませんでしたが,簿記の本質的な理解と最短効率の両立を追い求めたい方は検討の余地はあります。
Udemy
Youtubeも十分質は高いですが,Udemyの講座はやはり格別です。管理人はUdemy Businessを契約しているためほぼ全ての講座を見放題なのですが,以下を参考にしました。
Youtubeだと不安という方や有料コンテンツで質の高い学習を好む方はぜひ活用してみてください。
Webページ
Web上の良質なコンテンツとしては「CPAラーニング」が挙げられます。なんと,CPAラーニングでは簿記に関する講座は無料で公開されています。簿記2級のコースはこちらから確認できます。
こんなにも良質なコンテンツが無料で公開されているカラクリは,CAPラーニングは公認会計士のスクールであるからです。おそらく簿記の次のステップアップとして上位資格を目指される方の集客の一環として無料で公開しているのでしょう。これを利用しない手はないです。
他にも,仕訳問題対策として簿記検定ナビの重要仕訳TOP100が有用です。web版とPDF版がありますが,問題自体はPDFで確認して解説はweb版を使うのがよいでしょう。市販のテキストではカバーしていないような盲点を突くような問題が掲載されているため重宝しました。
演習問題回し
簿記の対策はとにかく問題を解くことが大切です。仕訳や精算表は頭で理解するより手を動かして視覚的に慣れていくのが一番の近道です。演習方法としてはネット試験と同じ形式のものをおすすめします。まずそもそも,ネット試験が受けられる簿記2級でわざわざ年に3回の統一試験を受けるメリットはありません。パソコンに極度の苦手意識がある方以外はネット試験を受けるとよいでしょう。この場合,問題演習もネット試験と同一の形式で行う必要があります。操作に慣れることはもちろん,当日配布される二枚のメモ用紙の使い方にも慣れることができます。
多くの人が「手を動かすことが大切だ」と口を揃えて唱えていますが,管理人も全く同じ意見です。管理人は今まで数多くの資格に挑戦してきましたが,その中でも簿記は「手を動かすことにより理解が深まる」度合いの強い試験だと思っています。演習は以下の書籍で行うとよいでしょう。
書籍に記載されている問題でもよいですが,上述の通りネット試験と同一の形式で演習を行うことが大切ですので,全10回の模擬試験形式の演習問題を利用しましょう。最低限1周,できれば2周しておきたいです。
各大問の対策
簿記2級では,第1問・第2問・第3問で商業簿記が問われ,第4問 (1)・第4問 (2)・第5問で工業簿記が問われます。難易度の傾向にかなりバラツキがあるため,以下の順番で問題を解くことをおすすめします。
- 第1問:商業簿記の仕訳問題
- 第4問 (1):工業簿記の仕訳問題
- 第5問:直接原価計算・標準原価計算など
- 第4問 (2):個別原価計算・総合原価計算など
- 第2問:株主資本等変動計算書・連結精算表など
- 第3問:決算問題など
それぞれの大問について対策方法を確認します。
第1問
商業簿記の仕訳問題が5問出題されます。上でも紹介しましたが,簿記検定ナビの重要仕訳TOP100を2周回せば安定して4問正解することができるはずです。特に注意して学ぶべき仕訳は
- 有価証券の端数利息
- 有価証券の税効果会計
- 研究開発費の分類
- 200%定率法と保証率・改定償却率
- リース料支払日と決算日が異なる場合の決算日の仕訳
- 役務収益と役務原価
あたりです。
第2問
株主資本等変動計算書や連結精算表などが出題されます。巷では一番難易度の高い大問とされていますが,管理人としてはコツさえ掴んでしまえば安定して点数を稼げる大問だと考えています。第二問として
- 連結会計とその連結精算表の作り方
- 本支店会計とその精算表の作り方
を押さえておけば頻出パターンは大方網羅できます。かつ,それぞれパズル的な手順で解き進めることができる内容であるため,理解するまでのハードルは一定高いものの,一度ハードルを超えてしまえばそこまで頭を使わずに解ける問題に変身します。巷で言われている「簿記二級の関門は連結会計」という言葉を鵜呑みにせず,連結会計や本支店会計でやりたいこと自体はシンプルであるという意識のもと学習を進めてみてください。
第3問
決算問題が出題されます。簿記3級の第3問と本質的には同じ内容であり,ボックス図を用いた商品評価損と棚卸減耗損を踏まえた棚卸高の算出,定率法による固定資産減価償却,税効果会計の適用を押さえておくことが大切です。簿記3級で痛感した方はおおいかと思いますが,決算問題は与えられた条件を仕訳できなければ何もできません。第1問の仕訳練習がそのまま活かされるのがこの第3問だと思います。
第4問 (1)
工業簿記の仕訳問題が3問出題されます。いずれも難易度としては低いものがほとんどですので,必ず満点を取りたい大問になります。第1問同様に仕訳の練習が肝心です。特に直接XXと間接XXの違いを理解するようにしてみてください。
第4問 (2)
個別原価計算や総合原価計算が出題されます。ボックス図とシュラッター・シュラッター図の意味を理解して書けるようにすれば安定して高得点が期待できます。連結会計同様,一見理解するハードルが高いような内容に感じられますが,実際はやっていることはシンプルで中学生でも理解できる内容です。ビビらずに正面からボックス図とシュラッター・シュラッター図を理解しにいきましょう。
ボックス図とシュラッター・シュラッター図の問題は必ず手を動かして理解するようにしてください。耳が痛いとは思いますが,特にこれらの図は「頭を動かすだけ」では習得することはできません。手を動かして「どの順番でどこを埋めていくのか」を身体から覚えさせるのが非常に大切です。
第5問
直接原価計算や標準原価計算が出題されます。特に問われやすいのは
- 全部原価計算と直接原価計算の違い
- 全部原価計算と直接原価計算の計算方法
ですので,ある一つのユースケースに対して全部原価計算と直接原価計算の両方を計算できるようにしておくことが本当に大切です。両方計算できるようになれば必然的にその差分を理解することができるようになるはずです。おそらく簿記の問題作成者は「全部原価計算と直接原価計算の違いを理解しているか」を重要視していると管理人は考えています。第5問では損益分岐点が問われることもありますが,全部原価計算と直接原価計算と比べると難易度は格段に下がりますので,仮に損益分岐点が問われた場合はラッキー問題だと思って点数を確保しましょう。
最終チェック
演習問題を2周できる方は,2周目は間違えた問題のポイントをまとめるようにしてください。1周しかできない方は1周目で間違えた問題でOKです。管理人は以下のようなポイント集を作って直前に見直していました。
管理人は間違いだけでなく理解したいポイントも併せて言語化するようにしています。まとめる媒体としてはNotionでも紙のノートでも何でも構いません。
おわりに
簿記は確実にビジネスで活かせる知識を学べます。この点については商工会議所も強調していて,
商工会議所の検定試験は,学校教育の試験とは異なり、「社会人として活躍できるかどうか」を問う内容となっていることが特長で,優秀な社会人の育成を目的として実施しています。出題内容は,ビジネス実務に直結したものになっているため,学校では習っていない分野もあるかもしれません。しかし,出題範囲からはずれたものは出題していませんので,検定試験の合格に向けた学習をしっかりと行えば解答できる内容となっています。
商工会議所「検定試験のご案内」より引用
と述べています。個人的には「就職活動で利用するための資格取得」は一部例外を除き肯定的ではないのですが,簿記については学べる知識の豊かさに驚きました。逆に今まで簿記の内容を知らずに仕事していたことが恥ずかしいくらいです。ぜひみなさんも簿記の勉強を通して定量的にビジネスを評価して意思決定できるスキルを身につけましょう。
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