本記事では,数学検定1級で頻出の交代式・対称式を用いた行列式の因数分解についてまとめていきます。
初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。
交代式・対称式を用いた行列式の因数分解
整式$f(a,b,c)$が$3$次の交代式ならば,
f(a,b,c) &= k(a-b)(b-c)(c-a)
\end{align}
と因数分解できる。同様に,$f(a,b,c)$が$4$次の交代式ならば,
f(a,b,c) &= k(a-b)(b-c)(c-a)(a+b+c)
\end{align}
と因数分解でき,$f(a,b,c,d)$が$6$次の交代式ならば,
f(a,b,c,d) &= k(a-b)(a-c)(a-d)(b-c)(b-d)(c-d)
\end{align}
と因数分解できる。
$3$次・$4$次・$6$次をおさえておけば十分でしょう。証明は因数定理に基づきます。
具体例
下記の行列式を求めよ。
\begin{vmatrix}
1 & b+c & a^{2}\\
1 & c+a & b^{2}\\
1 & a+b & c^{2}
\end{vmatrix},\quad
\begin{vmatrix}
1 & a^{2} & (b+c)^{2}\\
1 & b^{2} & (c+a)^{2}\\
1 & c^{2} & (a+b)^{2}
\end{vmatrix},\quad
\begin{vmatrix}
1 & a & a^{2} & bcd\\
1 & b & b^{2} & acd\\
1 & c & c^{2} & abd\\
1 & d & d^{2} & abc
\end{vmatrix}
\end{align}
解答
一つ目の行列式について,$a$と$b$を入れ替えると第一行と第二行が交換された形となり,行列式の性質より値は$(-1)$倍となります。同様に$b$と$c$,$c$と$a$を入れ替えても$(-1)$倍となるため,この行列式は交代式となります。次数に関しては,置換を用いた行列式の定義を思い出すと,各行から$1$つずつ各列から重複なく要素を選ぶとき,得られる整式の次数が最も大きくなる選び方から$3$次式であることが分かります。したがって,行列式は
k(a-b)(b-c)(c-a)
\end{align}
の形になりますが,行列式の多重共線性を用いて
\begin{vmatrix}
1 & b+c & a^{2}\\
1 & c+a & b^{2}\\
1 & a+b & c^{2}
\end{vmatrix}
&=
\begin{vmatrix}
1 & b & a^{2}\\
1 & c & b^{2}\\
1 & a & c^{2}
\end{vmatrix}+
\begin{vmatrix}
1 & c & a^{2}\\
1 & a & b^{2}\\
1 & b & c^{2}
\end{vmatrix}
\end{align}
と変形したときに,例えば$a^{2}c$が得られるのは第一項目の$(1,3)$要素,$(2,2)$要素,$(3,1)$要素の積だけであり,行列式の定義において符号は
\sgn
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
3 & 2 & 1
\end{pmatrix}
&= -1
\end{align}
と奇置換となるため,係数比較により$k=-1$が得られます。したがって,求める答えは
-(a-b)(b-c)(c-a)
\end{align}
となります。
$3$次の行列式ではサラスの公式で計算された適当な項から係数を比較してもよいでしょう。
二つ目の行列式について,$a$と$b$を入れ替えると第一行と第二行が交換された形となり,行列式の性質より値は$(-1)$倍となります。同様に$b$と$c$,$c$と$a$を入れ替えても$(-1)$倍となるため,この行列式は交代式となります。次数に関しては,置換を用いた行列式の定義を思い出し,各行から$1$つずつ各列から重複なく要素を選ぶとき,得られる整式の次数が最も大きくなる選び方から$4$次式であることが分かります。したがって,行列式は
k(a-b)(b-c)(c-a)(a+b+c)\label{2-1}
\end{align}
の形になりますが,例えば$a=2,b=1,c=0$とおくと式($\ref{2-1}$)は$-6k$,与えられた行列式は
\begin{vmatrix}
1 & a^{2} & (b+c)^{2}\\
1 & b^{2} & (c+a)^{2}\\
1 & c^{2} & (a+b)^{2}
\end{vmatrix}
&=
\begin{vmatrix}
1 & 4 & 1\\
1 & 1 & 4\\
1 & 0 & 9
\end{vmatrix}
= -12
\end{align}
となるため,$k=2$が得られます。したがって,求める答えは
2(a-b)(b-c)(c-a)(a+b+c)
\end{align}
となります。
恒等式において都合のよい$(a,b,c)$を入れる方法もあるということです。
三つ目の行列式について,$a$と$b$を入れ替えると第一行と第二行が交換された形となり,行列式の性質より値は$(-1)$倍となります。同様に$b$と$c$,$c$と$d$,$d$と$a$を入れ替えても$(-1)$倍となるため,この行列式は交代式となります。次数に関しては,置換を用いた行列式の定義を思い出し,各行から$1$つずつ各列から重複なく要素を選ぶとき,得られる整式の次数が最も大きくなる選び方から$6$次式であることが分かります。したがって,行列式は
k(a-b)(a-c)(a-d)(b-c)(b-d)(c-d)
\end{align}
の形になりますが,例えば$ab^{2}c^{3}$が得られるのは$(1,1)$要素,$(2,2)$要素,$(3,3)$要素,$(4,4)$要素の積だけであり,行列式の定義において符号は
\sgn
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
1 & 2 & 3 & 4
\end{pmatrix}
&= 1
\end{align}
と偶置換となるため,係数比較により$k=-1$が得られます。したがって,求める答えは
-(a-b)(a-c)(a-d)(b-c)(b-d)(c-d)
\end{align}
となります。
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