【数検1級対策】ケイリー・ハミルトンの定理とその応用

本記事では,数学検定1級で頻出のケイリー・ハミルトンの定理とその応用についてまとめていきます。

初学者の分かりやすさを優先するため,多少正確でない表現が混在することがあります。もし致命的な間違いがあればご指摘いただけると助かります。

目次

ケイリー・ハミルトンの定理とその応用

二次正方行列

\begin{align}
A &=
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
\end{align}

に対し,$A^{2}-(a+d)A+(ad-bc)E=O$が成り立つ。この定理を用いる際は,

  1. $A$に関する二次方程式が与えられたときに係数比較できない
  2. $A^{2}=A$のように字数下げのテクニックに利用できる
  3. $A^{2}+\alpha A+\beta$で割った際の余りを利用して字数下げを行う際は微分も併用する

に注意する。

特に1.が引っかけポイントです。

具体例

  1. $A^{2}-7A+10E=O$を満たす$a+d$と$ad-bc$を求めよ
  2. $A^{2}=A$を満たす二次正方行列をすべて求めよ
  3. 下記の行列の$n$乗を求めよ

\begin{align}
A &=
\begin{pmatrix}
2 & 1 \\
-1 & 4
\end{pmatrix}
\end{align}

1.の解答

ケイリー・ハミルトンの定理と与えられた等式の差を取ることにより,

\begin{align}
(a+d-7)A &= (ad - bc - 10)E
\end{align}

が得られます。$a+d=7$のときは$ad-bc=10$となり,$a+d\neq7$のときは$A=kE$となるので

\begin{align}
(kE)^{2}-7(kE)+10E
&= (k^{2}-7k+10)E = (k-2)(k-5)E = O
\end{align}

が得られます。$k{=}2$のとき$a{+}d{=}4$かつ$ad{-}bc{=}4$,$k{=}5$のとき$a{+}d{=}10$かつ$ad{-}bc{=}25$となります。以上より,

\begin{align}
(a+d, ad-bc) &= (4,4),~(7,10),~(10,25)
\end{align}

となります。

2.の解答

ケイリー・ハミルトンの定理に$A^{2}=A$を代入すると,

\begin{align}
(a+d-1)A &= (ad-bc)E
\end{align}

が得られます。$a+d-1=0$のとき,$ad-bc=0$となるため,これらを連立方程式として解きます。$d=1-a$を後者の式に代入すると,

\begin{align}
bc &= a(1-a)
\end{align}

となります。$b=0$のとき,$a=0,1$かつ$c=r$となります。ただし,$r$は任意の実数とします。$b\neq 0$のとき,$a=p$かつ$b=q$とおくと$c=p(1-p)/q$かつ$d=1-p$となります。$a+d-1\neq 0$のとき,

\begin{align}
A &= \frac{ad-bc}{a+d-1}E\label{2-1}
\end{align}

より$A=kE$と表されるため,$A^{2}=A$に代入すると$(k^{2}-k)E=0$が得られます。これを解くと$k=0,1$が得られます。以上より,求める二次正方行列は

\begin{align}
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 0
\end{pmatrix},
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix},
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
r & 1
\end{pmatrix},
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
r & 0
\end{pmatrix},
\begin{pmatrix}
p & q \\
\displaystyle
\frac{p(1-p)}{q} & 1-p
\end{pmatrix}
\end{align}

となります。

$A=kE$と表さずに式($\ref{2-1}$)のまま解答すると,具体的な$a,b,c,d$が求められず不適です。

3.の解答

ケイリー・ハミルトンの定理より,

\begin{align}
A^{2}-6A+9E &= 0
\end{align}

が成り立ちます。$A$と$E$は可換であることから$A^{n}$を$A^{2}-6A+9E$で整式のように割ることを考え,

\begin{align}
A^{n} &= (A^{2}-6A+9E)Q(A)+pA+qE
\end{align}

と変形することを目指します。$A$の代わりに$x$を用いて

\begin{align}
x^{n} &= (x^{2}-6x+9)Q(x)+px+q = (x-3)^{2}Q(x)+px+q\label{3-1}
\end{align}

と表し,両辺を$x$で微分することにより,

\begin{align}
nx^{n-1} &= 2(x-3)Q(x)+(x-3)^{2}Q^{\prime}(x) + p\label{3-2}
\end{align}

を得ます。式($\ref{3-1}$)と式($\ref{3-2}$)にそれぞれ$x=3$を代入すると,

\begin{cases}
3^{n} = 3p + q\\[0.7em]
n\cdot 3^{n-1} = p
\end{cases}

となるため,これを連立すると

\begin{align}
p = n\cdot 3^{n-1},\quad q = 3^{n} - n\cdot 3^{n} = (1-n)\cdot 3^{n}
\end{align}

が得られます。したがって,

\begin{align}
A^{n} &= O\cdot Q(A) + pA + qE = n\cdot 3^{n-1} A + (1-n)\cdot 3^{n}E\\[0.7em]
&=
\begin{pmatrix}
2n\cdot 3^{n-1}+(1-n)\cdot 3^{n} & n\cdot 3^{n-1} \\
-n\cdot 3^{n-1} & 4n\cdot 3^{n-1}+(1-n)\cdot 3^{n}
\end{pmatrix}\\[0.7em]
&=
\begin{pmatrix}
(3-n)\cdot 3^{n-1} & n\cdot 3^{n-1} \\
-n\cdot 3^{n-1} & (3+n)\cdot 3^{n-1}
\end{pmatrix}\\[0.7em]
\end{align}

となります。

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