統計検定1級の過去問解答解説を行います。目次は以下をご覧ください。
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問題
統計検定1級の過去問からの出題になります。統計検定の問題の著作権は日本統計学会に帰属していますので,本稿にて記載することはできません。「演習問題を俯瞰する」で詳しく紹介している公式の過去問題集をご購入いただきますようお願い致します。
解答
多変量正規分布の条件付き分布に関する出題でした。
(1)
多変量正規分布の周辺分布に関する定理において,
X_{1} = Y,~
X_{2} = X,~
\vmu_{1} = \vmu_{2} = 0,~
\Sigma_{11} = 1,~
\Sigma_{12} = \Sigma_{21} = \rho_{xy},~
\Sigma_{22} = 1
\end{align}
とおくと,
E[Y|X=x]
&= 0+\frac{\rho_{xy}}{1}(x-0) = \rho_{xy}x
\end{align}
が得られるため,$\beta_{x}=\rho_{xy}$となる。同様に,
V[Y|X=x]
&= 1-\frac{\rho_{xy}^{2}}{1}
= 1-\rho_{xy}^{2}
\end{align}
が得られる。
確率密度関数を変形して愚直に計算する方法は3変量正規分布の条件付き期待値と分散をご参照ください。
(2)
小問(2)と同様に,
X_{1} {=} Y,~
X_{2} {=} (X,Z),~
\vmu_{1} {=} 0,~
\vmu_{2} {=} (0,0),~
\Sigma_{11} {=} 1,~
\Sigma_{12} {=} \Sigma_{21}^{T} {=} (\rho_{xy},\rho_{yz}),~
\Sigma_{22} {=}
\begin{pmatrix}
1&\rho_{xz}\\
\rho_{xz}&1
\end{pmatrix}
\end{align}
とおくと,
E[Y|X=x,Z=z]
&= 0+(\rho_{xy}, \rho_{yz})
\frac{1}{1-\rho^{2}_{xz}}
\begin{pmatrix}
1&-\rho_{xz}\\
-\rho_{xz}&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x-0\\
z-0
\end{pmatrix}\\[0.7em]
&=
\frac{1}{1-\rho^{2}_{xz}}
(\rho_{xy}-\rho_{xz}\rho_{yz}, -\rho_{xy}\rho_{yz}+\rho_{yz})
\begin{pmatrix}
x\\
z
\end{pmatrix}\\[0.7em]
&= \frac{\rho_{xy} - \rho_{xz}\rho_{yz}}{1-\rho_{xz}^2}x + \frac{\rho_{yz} - \rho_{xy}\rho_{xz}}{1 - \rho_{xz}^2}z
\end{align}
が得られるため,
\begin{cases}
\displaystyle
\alpha_{x} = \frac{\rho_{xy} - \rho_{xz}\rho_{yz}}{1-\rho_{xz}^2}\\[0.7em]
\displaystyle
\alpha_{z} = \frac{\rho_{yz} - \rho_{xy}\rho_{xz}}{1 - \rho_{xz}^2}
\end{cases}
となる。同様に,
V[Y|X=x,Z=z]
&= 1-(\rho_{xy}, \rho_{yz})
\frac{1}{1-\rho^{2}_{xz}}
\begin{pmatrix}
1&-\rho_{xz}\\
-\rho_{xz}&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\rho_{xy}\\
\rho_{yz}
\end{pmatrix}\\[0.7em]
&= 1-\frac{1}{1-\rho^{2}_{xz}}
(\rho_{xy}-\rho_{xz}\rho_{yz}, -\rho_{xy}\rho_{yz}+\rho_{yz})
\begin{pmatrix}
\rho_{xy}\\
\rho_{yz}
\end{pmatrix}\\[0.7em]
&=
1 - \frac{\rho_{xy}^2 - 2\rho_{xy}\rho_{yz}\rho_{xz} + \rho_{yz}^2 }{1-\rho_{xz}^2}
\end{align}
が得られる。
(3)
小問(1)および小問(2)の結果より,$\beta_{x}=\alpha_{x}$という条件を同値変形すると
(\rho_{yz}-\rho_{xy}\rho_{xz})\rho_{xz} &= 0
\end{align}
となる。これより,$\beta_{x}=\alpha_{x}$となるための必要十分条件は$\rho_{yz}=\rho_{xy}\rho_{xz}$または$\rho_{xz}=0$である。
$\rho_{yz}=\rho_{xy}\rho_{xz}$は偏相関係数の分子そのものであり,「$x$を$y$と$z$の条件付けても変わらない」こと,つまり$X=x$の下で$Y$と$Z$は条件付き独立であることを意味しています。また,多変量正規分布においては無相関と独立は等価であることに注意すると,$\rho_{xz}=0$は「$X$と$Z$は独立である」ことを意味しています。
(4)
小問(1)および小問(2)の結果より,$V[Y|X=x]=V[Y|X=x,Z=z]$という条件を同値変形すると
(\rho_{yz}-\rho_{xy}\rho_{xz})^{2} &= 0
\end{align}
となる。これより,$V[Y|X=x]=V[Y|X=x,Z=z]$となるための必要十分条件は$\rho_{yz}=\rho_{xy}\rho_{xz}$である。
小問(3)と同様に,$\rho_{yz}=\rho_{xy}\rho_{xz}$は偏相関係数の分子そのものであり,「$x$を$y$と$z$の条件付けても変わらない」こと,つまり$X=x$の下で$Y$と$Z$は条件付き独立であることを意味しています。
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