【過去問解答】2018年統計検定1級<数理統計問3>

統計検定1級の過去問解答解説を行います。目次は以下をご覧ください。

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目次

問題

統計検定1級の過去問からの出題になります。統計検定の問題の著作権は日本統計学会に帰属していますので,本稿にて記載することはできません。「演習問題を俯瞰する」で詳しく紹介している公式の過去問題集をご購入いただきますようお願い致します。

解答

二項分布とモーメント法に関する出題でした。

(1)

\begin{align}
E[X] &= n\theta,\quad V[X] = n\theta(1-\theta)
\end{align}

二項分布の確率母関数は

\begin{align}
G(s) &= \sum_{x=0}^{n}(\theta s)^{x}(1-\theta)^{n-x} = \left\{\theta s+(1-\theta)\right\}^{n}
\end{align}

となるため,原点周りの一次モーメントは

\begin{align}
E[X] &= G^{\prime}(1) = n\theta\left\{\theta s+(1-\theta)\right\}^{n-1}\biggr|_{s=1} = n\theta
\end{align}

となり,原点周りの二次モーメントは

\begin{align}
E[X^{2}] &= G^{\prime\prime}(1)+G^{\prime}(1) = n(n-1)\theta^{2}\left\{\theta s+(1-\theta)\right\}^{n-2}\biggr|_{s=1} +n\theta = n(n-1)\theta^{2}+n\theta
\end{align}

となります。したがって,分散は

\begin{align}
V[X] &= E[X^{2}]-E[X]^{2} = n(n-1)\theta^{2}+n\theta-(n\theta)^{2} = n\theta(1-\theta)
\end{align}

となります。

(2)

条件付き確率の定義より,

\begin{align}
h(x) &= P(X=x|X\geq 1) = \frac{P(X=x,X\geq 1)}{P(X\geq 1)} = \frac{P(X=x,X\geq 1)}{1-P(X=0)}
\end{align}

となります。ここで,$P(X{=}x,X{\geq}1)$は$x{=}1,2,\ldots,n$における二項分布の確率質量関数であるため,

\begin{align}
h(x) &= \frac{{}_{n}C_{x}\theta^{x}(1-\theta)^{n-x}}{1-(1-\theta)^{n}}\quad (x=1,\ldots,n)
\end{align}

と表すことができます。

定義に従って計算するだけです。

(3)

\begin{align}
\eta(\theta) = \frac{n\theta}{1-(1-\theta)^{n}},\quad
\xi(\theta) = \frac{n(n-1)\theta^{2}+n\theta}{1-(1-\theta)^{n}}-\frac{(n\theta)^{2}}{\{1-(1-\theta)^{n}\}^{2}}\label{3-1}
\end{align}

原点周りの$k$次モーメントの定義より,

\begin{align}
E[X^{k}|X\geq 1]
&= \sum_{x=1}^{n}x^{k}h(x) = \sum_{x=0}^{n}x^{k}h(x) = \frac{1}{1-(1-\theta)^{n}}\sum_{x=0}^{n}x^{k}p(x) = \frac{E[X^{k}]}{1-(1-\theta)^{n}}
\end{align}

となりますので,$E[X^{k}|X\geq 1]$は小問(1)で求めた$E[X^{k}]$を$1{-}(1{-}\theta)^{n}$で割ればよく,

\begin{cases}
\displaystyle
E[X|X\geq 1] = \frac{n\theta}{1-(1-\theta)^{n}}\\[0.7em]
\displaystyle
E[X^{2}|X\geq 1] = \frac{n(n-1)\theta^{2}+n\theta}{1-(1-\theta)^{n}}
\end{cases}

となります。したがって,小問(1)と同様にして求める答えは式($\ref{3-1}$)となります。

$\xi(\theta)$は通分しても綺麗な形になりませんので,差の形のまま解答してもよいでしょう。

(4)

\begin{align}
\theta &= 1-2^{-1/8}\label{4-1}
\end{align}

小問(3)の結果を用いることにより,求める$\theta$は

\begin{align}
\frac{8\theta}{1-(1-\theta)^{8}} &= 2\cdot 8\theta
\end{align}

を満たします。これを$\theta$について解くことにより,式($\ref{4-1}$)が得られます。

(5)

$\vy{=}y_{1},\ldots,y_{m}$の同時確率質量関数を$f(\vy)$とおくと,

\begin{align}
f(\vy)
&= \prod_{i=1}^{m}\frac{{}_{n}C_{y_{i}}\theta^{y_{i}}(1-\theta)^{n-y_{i}}}{1-(1-\theta)^{n}}\\[0.7em]
&= \frac{\prod_{i=1}^{m}{}_{n}C_{y_{i}}\theta^{\sum_{i=1}^{m}y_{i}}(1-\theta)^{\sum_{i=1}^{m}(n-y_{i})}}{\{1-(1-\theta)^{n}\}^{m}}\\[0.7em]
&= \frac{\prod_{i=1}^{m}{}_{n}C_{y_{i}}\theta^{m\bary}(1-\theta)^{m(n-\bary)}}{\{1-(1-\theta)^{n}\}^{m}}
\end{align}

となる。対数尤度関数を$L(\theta)$とおくと,

\begin{align}
L(\theta) &\propto m\bary\ln \theta+m(n-\bary)\ln(1-\theta)-m\ln\{1-(1-\theta)^{n}\}
\end{align}

となるため,$L$は

\begin{align}
\frac{\partial L}{\partial \theta}
&= \frac{m\bary}{\theta}-\frac{m(n-\bary)}{1-\theta}-\frac{m(1-\theta)^{n-1}}{1-(1-\theta)^{n}} = 0
\end{align}

を満たす$\theta=\hat{\theta}$で最大値を取る。これを$\bary$について整理すると,

\begin{align}
\bary &= \frac{n\hat{\theta}}{1-(1-\hat{\theta})^{n}}\label{5-1}
\end{align}

が得られる。これは$\eta(\theta)$を$\bary$で置き換えた形となっているため,$\hat{\theta}$はモーメント法に基づく推定値でもあることが示された。

通分計算がやや複雑ですが,小問(3)で求めた$\eta(\theta)$と同じ形を目指すというゴールが明確であるため,諦めずに計算を続けましょう。対数尤度関数$L$が$\hat{\theta}$で最大値を取ることは,時間があれば示しましょう。また,式($\ref{5-1}$)は陽に解くことができませんので,$n\hat{\theta}{=}\bary(1{-}(1-\hat{\theta})^{n})$の形で右辺を適当な値で初期化して左辺を計算し,その結果を再度右辺に代入するなどして,逐次的に$\hat{\theta}$を求めることができます。

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