本記事は「これなら分かる!はじめての数理統計学」シリーズに含まれます。
不適切な内容があれば,記事下のコメント欄またはお問い合わせフォームよりご連絡下さい。
問題
数学検定1級の公式テキストからの出題になります。数学検定の問題の著作権は日本数学検定協会に帰属していますので,本書にて記載することはできません。公式の過去問題集をご購入いただきますようお願いしております。
解答
カイ二乗分布は理論値との食い違いを表す分布でした。以下のような確率変数がカイ二乗分布に従います。
\chi^2
&= \frac{(\text{理論値からのズレ})^2}{\text{理論値}} \\[0.7em]
&= \frac{\left(\text{実測値} - \text{理論値} \right)^2}{\text{理論値}} \label{カイ二乗の確率変数}
\end{align}
実測値は問題で与えられた表そのものです。
A | B | C | 計2 | |
ブル | $5$ | $4$ | $1$ | $10$ |
トリプル | $25$ | $8$ | $7$ | $40$ |
その他 | $20$ | $18$ | $12$ | $50$ |
計1 | $50$ | $30$ | $20$ | $100$ |
理論値は,各セルの期待値になります。期待値と言われてもよく分からないですよね。詳しく説明します。帰無仮説では3人の間に「ブル」「トリプル」「それ以外」の回数の比率に差がないという前提に立ちました。注意するべきは,回数の「比率」に注目しているのであって,「回数」自体に注目している訳ではないことです。
期待値の算出は計1の欄に注目します。すなわち,Aさんが50回,Bさんが30回,Cさんが20回ダーツを投げているところから始まります。「理論的に言えば」Aさんはブルを何回出すのが相応しいしょうか。
ここで効いてくるのが帰無仮説です。3人の間に「ブル」「トリプル」「それ以外」の回数の比率に差がないという立場に立ちます。計2の欄に注目すると,ブルは10%,トリプルは40%,その他は50%の比率で出ていることが分かります。帰無仮説は,これらのパーセンテージがAさん,Bさん,Cさんそれぞれに差がないことを主張しています。
ですので,各セルの理論的な期待値は以下のように求められます。
Aさん | Bさん | Cさん | 計2 | |
ブル | $50 \times 0.1$ | $30 \times 0.1$ | $20 \times 0.1$ | $10$ |
トリプル | $50 \times 0.4$ | $30 \times 0.4$ | $20 \times 0.4$ | $40$ |
その他 | $50 \times 0.5$ | $30 \times 0.5$ | $20 \times 0.5$ | $50$ |
計1 | $50$ | $30$ | $20$ | $100$ |
実際に計算すると,以下のようになります。
Aさん | Bさん | Cさん | 計2 | |
ブル | $5$ | $3$ | $2$ | $10$ |
トリプル | $20$ | $12$ | $8$ | $40$ |
その他 | $25$ | $15$ | $10$ | $50$ |
計1 | $50$ | $30$ | $20$ | $100$ |
したがって,式($\ref{カイ二乗の確率変数}$)を表に入れると以下のようになります。
Aさん | Bさん | Cさん | |
ブル | $\frac{(5 - 5)^2}{5}$ | $ \frac{(4 - 3)^2}{3}$ | $\frac{(1 - 2)^2}{2}$ |
トリプル | $\frac{(25 - 20)^2}{20}$ | $\frac{(8 - 12)^2}{12}$ | $\frac{(7 - 8)^2}{8}$ |
その他 | $\frac{(20 - 25)^2}{25}$ | $\frac{(18 - 15)^2}{15}$ | $\frac{(12 - 10)^2}{10}$ |
計算結果は以下のようになります。
Aさん | Bさん | Cさん | |
ブル | $0$ | $0.33\ldots$ | $0.5$ |
トリプル | $1.25$ | $1.33\ldots$ | $0.125$ |
その他 | $1$ | $0.6$ | $0.4$ |
全てのセルの合計値は$\chi^2 = 5.54166\ldots$になりました。
さて,$\chi^2$分布表より,上側$5%$点を算出しましょう。今回は,行数が$3$,列数も$3$の表でしたので,$\chi^2$分布の自由度は$(3 - 1) \times (3 - 1) = 4$になります。表を読み取ると,自由度$4$の上側$5%$点は$9.49$であることが分かりました。
0.99 | 0.975 | 0.95 | 0.05 | 0.025 | 0.01 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 3.84 | 5.02 | 6.64 |
2 | 0.02 | 0.05 | 0.10 | 5.99 | 7.38 | 9.21 |
3 | 0.12 | 0.22 | 0.35 | 7.82 | 9.35 | 11.35 |
4 | 0.30 | 0.48 | 0.71 | 9.49 | 11.14 | 13.28 |
5 | 0.55 | 0.83 | 1.15 | 11.07 | 12.83 | 15.09 |
6 | 0.87 | 1.24 | 1.64 | 12.59 | 14.45 | 16.81 |
7 | 1.24 | 1.69 | 2.17 | 14.07 | 16.01 | 18.48 |
8 | 1.65 | 2.18 | 2.73 | 15.51 | 17.54 | 20.09 |
9 | 2.09 | 2.70 | 3.33 | 16.92 | 19.02 | 21.67 |
10 | 2.56 | 3.25 | 3.94 | 18.31 | 20.48 | 23.21 |
表の行を$n$,列を$\alpha$とすると,自由度$n$の上側$\alpha$点の値を表す
$\chi^2 < 9.49$であり,今回求めた$\chi^2$の値は棄却域に入りませんでした。したがって,帰無仮説は棄却されません。ゆえに,3人の間に「ブル」「トリプル」「それ以外」の回数の比率に差がないとは言えません。
ちなみに,帰無仮説が棄却されなかったからといって,対立仮説が正しいことにはならないため,差があるとも言えないことに注意してください。多くの人が引っかかります。
コメント