はじめに
基本情報技術者試験は,情報系の試験の中でも随一の人気を誇る資格です。ITに関わる勉強や仕事をしている人であれば,取得することは必須といっても過言ではない国家試験となっています。しかし,基本情報技術者試験の出題範囲は非常に幅広く,初学者にとっては何から手を着けてよいのか分からないでしょう。学生や社会人の皆さんは,資格試験の勉強に割ける時間があまりないという人も多いと思います。この記事では,基本情報技術者試験に「最短ルート」で合格するために管理人が推奨している勉強法と対策法をお伝えしていきます。
他のIPA資格試験に関しては下記をご参照ください。
IPAの資格取得を目指す理由
皆さんがIPAの資格取得を目指す理由は何でしょうか。一般的には下記の理由が考えられます。
- ITの教養を身につけるため
- 会社で強制的に取得する必要があるため
- 転職活動のアピールに使うため
どのような理由であれ,管理人がIPAの資格試験に対して推奨している心構えがあります。
例えば,上記理由のうち「ITの教養を身につけるため」に該当する人は,IPAの資格取得が必ずしも目的にはならず,あくまでも手段でしかありません。ITの教養を身に付けるという目的に対し,IPAの資格取得は必ずしもベストな手段ではありません。IPAの資格対策本や対策セミナーよりも適切な書籍や教育機関が世に溢れかえっているからです。
上記理由のうち「会社で強制的に取得する必要があるため」や「転職活動のアピールに使うため」に該当する人はIPAの資格取得が目的になっていますが,IPAの資格試験を暗記ゲームだと割り切るのは少し寂しいです。たまに寄り道の勉強を行うことで,資格取得という目的を見失わずに周辺知識を拾いましょう。教科書的な書籍や過去問演習だけでなく,例えば日経XTECHを数年分読むことで,試験対策と同時に最新の技術トレンドをキャッチアップすることができます。他にも,応用情報や高度試験の参考書を覗いてみるのもよいでしょう。
このような背景から本記事では,IPAの資格を取得することが目的であるという前提のもと,その傾向と対策をお伝えしていきます。ベースとしてIPA資格試験を暗記ゲームと捉え,寄り道をして周辺知識をつまみ食いしていくイメージです。
基本情報技術者試験について
概要
基本情報技術者試験(FE:Fundamental Information Technology Engineer Examination)は,CBT方式により随時実施されているIT系国家試験の1つです。近年では非常に人気の資格試験になっており,情報処理技術者試験の中で最も基本的な知識を問われるものです。
形式
四肢択一式の科目Aと多肢選択式の科目Bに分けられます。
科目 | 出題時間 | 出題数 | 合格ライン | 形式 |
---|---|---|---|---|
A | 90分 | 60問 | 60% | 四肢択一式 |
B | 100分 | 20問 | 60% | 多肢選択式 |
科目Aでは出題数60問のうち評価は56問で行い,残りの4問は今後出題する問題を評価するために利用されます。同様に,科目Bでは出題数20問のうち評価は19問で行い,残りの1問は今後出題する問題を評価するために利用されます。
合格率・申込数・受験数
合格率は2020年以前と以後で大きく傾向が変わっています。背景には新型コロナウイルス感染症の影響があります。度重なる試験の延期で申込者が「コロナ禍でも試験を受けたい人」に限定されたうえ,緊急事態宣言下で十分な対策を行う時間が確保できたことが合格率上昇の要因として考えられます。
他にも,2020年度秋期試験より試験形式をPBT(Paper Based Testing)からCBT(Computer Based Testing)に移行したことも要因として挙げられます。これにより,受験のチャンスが半年に一度で試験地も指定されていたものが,受験者の任意の日時に受験できるようになっただけでなく,科目Aと科目Bを別日に受験できるようになりました。また,CBT方式の試験ではIRT(Item Response Theory)と呼ばれる採点方式となっており,運や難易度といった要素を排除するように得点調整がなされています。
〜2019年度秋期 | 2020年度秋期〜 | |
---|---|---|
方式 | PBT | CBT |
会場 | IPAが指定 | 受験者が選択 |
日程 | 春期・秋期 | 任意の日時 |
科目A・科目B | 同日実施 | 同日 or 別日実施 |
科目B | 7/13問選択 | 5/13問選択 |
2020年度春期は新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から試験実施が取りやめられ,代わりに秋期に試験が実施されました。2020年度秋期は2021年度に実施され,結果として春期と秋期が交代されました。また,2020年度秋期からは午後問題の「ソフトウェア開発」でPythonを選択できるようになりました。
申込数・受験数も新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けています。基本情報技術者試験の受験層の一部は,ITパスポート試験に流れているものと考えられます。詳しくは下記をご参照ください。
試験範囲
基本情報の試験範囲は膨大で,科目Aでは下記が問われます。全体の7割程度をテクノロジ系が占めており,いわゆる「情報の授業」の延長線上のような内容が出題されます。
- テクノロジ系
- 基礎理論:基数/論理演算/待ち行列/符号理論/伝送理論/信号処理など
- アルゴリズムとプログラミング:データ構造/アルゴリズム/プログラミング言語など
- コンピュータ構成要素:プロセッサ/メモリ/デバイスなど
- システム構成要素:仮想化/冗長化/性能指標/信頼指標など
- ソフトウェア:OS/ミドルウェア/ファイルシステム/OSSなど
- ハードウェア:電気回路/論理設計/半導体素子など
- ユーザーインタフェース:情報アーキテクチャ/アクセシビリティ/ユニバーサルデザインなど
- 情報メディア:音声処理/画像処理/動画処理/色の表現など
- データベース:DBMS/論理設計/正規化/SQL/排他制御/データマイニングなど
- ネットワーク:OSI参照モデル/プロトコル/ルーティング/障害管理など
- セキュリティ:暗号技術/公開鍵基盤/セキュアプロトコル/リスクアセスメントなど
- システム開発技術:要件定義/システム設計/モジュール設計/テスト手法など
- ソフトウェア開発管理技術:アジャイル開発/DevOps/知的財産管理など
- マネジメント系
- プロジェクトマネジメント:プロジェクト計画/スコープ定義/コスト見積もり/品質計画など
- サービスマネジメント:SLA/問題管理/運用管理/パフォーマンス評価など
- システム監査:監査人の倫理/監査の計画/内部統制など
- ストラテジ系
- システム戦略:ビジネスモデル/業務モデル/情報システム戦略評価など
- システム企画:要求分析/非機能要件定義/サプライチェーンマネジメントなど
- 経営戦略マネジメント:経営戦略および分析/マーケティング理論/バランススコアカードなど
- 技術戦略マネジメント:技術動向/投資計画/特許取得など
- ビジネスインダストリ:IoT/AI/EC/情報通信機器など
- 企業活動:コーポレートガバナンス/行動科学/在庫問題/財務会計など
- 法務:不正競争防止法/サイバーセキュリティ/労働基準法/コンプライアンス/標準化団体など
科目Bでは下記が問われます。
- プログラミング系(16/20問)
- プログラミング全般:アルゴリズム/プログラムの解読/デバッグなど
- プログラムの処理:型/変数/配列/代入/演算/繰り返しなど
- データ構造とアルゴリズム:再帰/スタック/キュー/木構造/グラフなど
- プログラミングの諸分野への適用:数理/データサイエンス/AIなど
- セキュリティ系(4/20問)
- 情報セキュリティ:マルウェア/バックアップ/ログ取得及び監視など
2019年以前と2020以降の基本情報技術者試験では,科目B(旧午後試験)が大きく変更されました。具体的には,2019年以前は必須問題と選択問題があり,受験者によっては「システム戦略」「経営戦略」「企業と法務」のような科目を選択する人もいました。また,プログラミング言語の分野では表計算ソフトを選ぶこともでき,プログラミングが苦手な人の回避策となっていました。
2020年以降は,2019年以前に必須科目であった「情報セキュリティ」と「データ構造及びアルゴリズム」を中心とした出題となり,エンジニアリングに寄った知識が問われるようになりました。科目A(旧午前試験)の時間は150分から90分,問題数は80問から60問に減少しました。一方,科目B(旧午後試験)の時間は150分から100分に減少しましたが,問題数は5問から20問に増加しました。これは,旧午後試験では長めの大問を11問中5問選択する方式でしたが,変更後の科目Bでは科目Aと同様の短文問題に解答する方式となっているからです。
変更後の難易度が上がった訳ではありません。むしろ科目Bで科目Aの知識を活用しやすくなったうえ,対策するべき分野も絞られたため,全体として対策しやすくなった印象があります。
傾向と対策
まず最初に一番やってはいけない勉強法をお伝えします。それは「長い期間かけてダラダラ対策をする」ことです。上で述べた通り,IPA資格試験は暗記ゲームとして割り切りたいです。IPA資格試験では,IT系の基礎的な知識を網羅するために深い仕組みや背景などは無視して用語や計算問題が問われるからです。資格試験の性質上これは仕方ないことで,各分野で深い理解を問うような出題をしていたら膨大な範囲の試験をカバーすることができなくなってしまいます。この試験範囲の広さから,ダラダラ勉強するとIPA資格試験の対策は途中で挫折しがちです。
ここで一つ合格のポイントがあります。IPA資格試験の合格ラインは60%とかなり低めに設定されていることに注目しましょう。半分ちょっと正解すれば国家試験に合格できてしまうのです。つまり,IPA資格試験において全ての範囲を完璧に仕上げる必要はないということです。以下ではこのスタンスで勉強法と対策をお伝えしていきます。
試験対策の心得
勉強して知識を得る営みは,タンスに服を片付ける行為とよく似ています。皆さんは何も意識せずとも,タンスの引き出しをそれぞれ「上着用」「下着用」「小物類」などと使い分けていますよね。そうしないと,どこに何の服が入っているか分からなくなってしまうからです。勉強も同じです。何も考えずにただ知識をつけてしまうと,その知識をどのように使えばよいのか分からなくなってしまうのです。
筆者は,勉強内容を分野ごとにマッピングすることが重要だと考えています。これはIPA資格試験の対策だけに限らず,中学校や高校の定期試験,大学受験,大学院受験にも通じる考え方で,筆者が勉強人生を通じて意識していることです。知識の引き出しを用意して名前をつけること,すなわち自分が勉強して得た知識がどの領域に属するのかを明示的に意識することを,管理人は「知識にラベルを付ける」と表現しています。具体的には,勉強して知識を得るときは,目指している資格の出題範囲を把握し,必ず「この知識は出題範囲のどこに属する内容なのか」を意識したいです。
ラベルを付けるという表現は,知識にインデックスを貼ると表現してもよいでしょう。DBパフォーマンス向上の文脈で登場する概念であるインデックスを使った比喩になります。
実際の試験では,制限時間が設けられます。せっかく引き出しにラベルが付けられても,タンスから所望の衣服を取り出す練習をしなければ手間取ってしまうでしょう。そこで,本稿では午前対策を早々に切り上げた後に,時間の許す限り午後問題を用いた演習を推奨しています。書籍で知識のベースを身につけた上で,演習でタンスから衣服を取り出す練習を行いましょう。
対策の流れ
管理人推奨の参考書を一周します
基本情報技術者試験ドットコムを利用します
基本情報技術者試験ドットコムを利用します
試験勉強のコツは「一度間違えた問題を二度と間違えない」ことです
知識の網羅
基本情報対策の定番書籍は3つ挙げられます。自分に合った1つだけに取り組むだけで十分です。
通称キタミ本で,管理人はこちらを利用しました。漫画タッチのイラストがキャッチーで特徴的です。
通称猫本です。専用Webサイトと連携できる点が特徴的です。
「いちばんやさしい」の謳い文句の通り,小学校の教科書のような分かりやすさが特徴的です。
科目Aの過去問演習
参考書を一周した後は,過去5年分の午前過去問を回しましょう。基本情報技術者試験ドットコムさんは非常に優秀なサイトで,年度を指定したり,間違えた問題だけを指定したりして過去問を解くことができます。基本情報の科目Aでは毎年同じ問題が出題される可能性が高いですが,5年以上前の古い問題では答えが変わっている可能性があるため,最低5年,せいぜい10年程度の過去問演習で十分でしょう。なお,基本情報技術者試験ドットコムさんでは古い問題の解答が変わっていれば注釈がつけられていますので安心してください。
最初のうちは分からない用語や概念が多すぎて嫌になってしまうかもしれません。上で挙げたキタミ本や猫本を何周もして知識を完璧に身に付けてから過去問を回す手もありますが,分厚い書籍を隅から隅まで暗記することは難しいですし,ほとんどの人が挫折すると思います。それは内容の難しさではなく,勉強量と労力に対して挫折してしまうのです。全分野を完璧に理解・暗記してから過去問に取り組むのは,確かに完璧な流れではあるのですが,相応の覚悟が必要です。最も効率よく最短ルートで合格を目指されるのであれば,上述のようにまずは参考書1周して試験の全体像を掴み,過去問を回して出題範囲を意識しながら分からない問題を潰していくという方式が最適だと考えています。
過去問演習時は必ずつまずいたポイントをまとめておきましょう。この方法はIPA資格試験に限らず問題演習形式の試験対策で筆者が強く推奨している方法で,例えばAWS認定資格試験の対策でも有効な手段でした。間違えた部分や理解できなかった部分のまとめ方は,ノートやNotionなど何でもよいです。管理人の場合はブログ上で見直しポイントをまとめています。
科目Bの過去問演習
STEP1の書籍は最低1周は目を通すことを推奨していますが,こちらの書籍は必ずしも全てに目を通す必要はありません。科目Bの演習を行う中で間違えてしまった点や不明な点が出てきたときに,トピックを重点的に復習するイメージです。科目Aの参考書で事足りる場合が多いでしょう。
午後問題の演習は「アルゴリズムとデータ構造」「プログラミング言語」の2種類に重点を当ててください。「情報セキュリティ」も出題範囲内ですが,上で説明した通り出題割合は低いですし,科目Aの知識でカバーできる部分が多いです。
時間配分サンプル
難易度は科目Bの方が高いです。しかし,科目Aの知識は科目Bで存分に活用できるため,科目Bしか対策しないという方針はおすすめできません。限られた勉強時間をどのように配分するかという点がポイントになります。半年に1回のペースで実施されていた試験がCBT方式に変わったことにより,この日までに勉強を完了させるという指標であるマイルストーンを設定することが難しくなっていると思います。そこで,皆さんが勉強を開始する日に,試験日を決めてしまうことを管理人は推奨しています。勉強期間としては忙しさに応じて決めていただければよいですが,仮にIT未経験の社会人で平日の勉強時間が十分に確保できない方でも,最低3ヶ月あれば十分合格ラインを狙えるはずです。逆に,4ヶ月以上のマイルストーンを定めても,ダラダラと勉強を続けてしまうだけになる可能性が高いです。
仮に試験日を1ヶ月後に定めたとした場合,以下のような勉強時間の配分をするとよいでしょう。
- 知識の網羅:直近土日の2日間
- 科目Aの過去問演習:2週間
- 科目Bの過去問演習:1週間
- 間違いポイントの復習:随時+残り時間
土日の2日間で分厚い参考書を読破するのは難しいように思えます。しかし,2日間丸々勉強に捧げれば十分可能な目標だと思っています。何度もお伝えしている通り,全てを完璧に理解する必要はありません。過去問演習時に間違えた問題は随時参考書に立ち戻ってノートやNotionにポイントをまとめておけば,必ず合格ラインに到達することができます。
プラスアルファを求める方へ
IPAの資格試験は暗記ゲームだと割り切りつつ,たまに本質的な理解や技術トレンドを把握するための寄り道をするべきだとお伝えしましたが,特に後者の「本質的な理解や技術トレンドの把握」を行うためには日経XTECHの活用をおすすめします。特に管理にが愛用しているのは日経NETWORKです。ネットワークまわりの技術トレンドを手早くキャッチアップすることができるため,基本情報の文脈では科目Aの対策になります。有料となってしまいますが,良質な記事が多いです。特におすすめの特集を下記のページでまとめています。
日経NETWORKだけでなく,高度試験の対策本を覗いてみるのもおすすめしています。
「アルゴリズムとデータ構造」と「プログラミング言語」の対策としては,頻出のソートや探索のアルゴリズムを再現実装することも非常に効果的です。例えば,二分探索やクイックソートをPythonで実装してみると,確実に力が付きます。今ではGoogle Colaboratoryを利用してPythonの動作環境をすぐに準備できるため,一昔前とは異なり敷居も低くなっていると思います。
c++となってしまいますが,頻出アルゴリズムの実装が非常に分かりやすいです。
Pythonによる実装付きの書籍としておすすめです。
おわりに
基本情報技術者試験で立ちはだかる壁は以下の4つです。
- 膨大な範囲
- 大量のアルファベット略称
- 敷居の高いアルゴリズムとデータ構造
- 敷居の高いプログラミング言語
多くの人は国家資格を取得すると意気込んで勉強を始めますが,一週間も経たないうちに勉強するべき分野の多さに挫折してしまいます。上で基本情報技術者試験は暗記ゲームと割り切るべきだとお伝えしましたが,その理由の1つが「アルファベットで略す概念の多さ」です。多くの英単語の略称をアルファベット3文字で略すことが多いのですが,どれも似通っていて英語の原義を理解しても覚えるのは大変です。上でお伝えした通り,タンスの引き出しにラベルをつけておけば「このアルファベットはこの分野」というイメージを湧かせながら勉強することができるため,効率よく知識を吸収できます。
少し極論かもしれませんが,基本情報技術者に合格できるかどうかは科目Bの「アルゴリズムとデータ構造」および「プログラミング言語」の出来に依存していると管理人は考えています。初めは敷居が高く感じられる問題ですが,実は単純な場合が多いですので,見た目に臆せずに勉強を続けてください。
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